ちゃちゃさんの作品

約束の地 〜ティファ編〜




あの戦いの前には、ここには空がなかった。

今じゃ瓦礫の山になったこの街に
太陽の光だけが、豊かにふりそそいでいる。

それがかえってみじめな姿をうきぼりにする、と
嫌うひともいる。

でも、わたしたちは帰ってきた。
そして生きようとしている。
この、ミッドガルの地で。



☆  ☆  ☆



「よう、ティファ」

「ちょっとこっちにくる用事あったから、寄ってみたの。
 はい、さしいれ」

「おー、わりいな」

バレットとクラウドは、街の復興のために
毎日肉体労働に勤しんでいる。

瓦礫のなかから、建材をひろっては
なんとか使える建物をつくりあげていくのだ。

わたしは、そんなバラックのひとつで
以前のように食堂兼酒場を開きながら
時々こうして差し入れに来たりするのだけれど…。

「…クラウド、は?」

「…ああ、ちょっと、な」

「ちょっと、なにがあったの?」

「心配するほどのことじゃねえよ」

「…隠されたら、よけいに心配になるでしょ?」

「あぁ、そうか。そりゃそうだな…。
 …リーヴの野郎がよ、
 魔晄中毒のレポートとやらを掘り出してきやがったんだ」

「まこう…ちゅうどく、の?」

「ああ。だが、心配しないでいい。
 どのケースも、クラウドとは違う条件だし
 第一、あいつはいまのところ、どこにも異常がないんだからよ」

…クラウドと同じ条件の人?
そんなひと、世界中探してもいるわけがない。


バレットの話は、
わたしのもっとも恐れていたものを目の前につきつけた。

いままで…まるで考えなかったわけじゃなかった。

一度は治ったように見えた魔晄中毒の症状だけど、
二度と再発しないという保証はない…。

無理に移植されたジェノバ細胞の副作用が
いつあの人の身体をむしばみはじめるかわからない。

それとも……。

それとは逆に…
あのひとはいつまでも歳をとらずに
私だけが……。

ヴィンセントがそうなのだから、ありえないとはいえない。



考えるたびに、打ち消してきた…。
考えたってしかたないことだ、って。

私も、あの戦いの中で少しは強くなったから。
不安をそのままクラウドになげかけて
あの人を苦しめたりはするまい、って。

そう思ってきたんだけど。
……だけど…。

「オイ、ティファ?」

「……」

バレットの声に、これまでずっとひとりで打ち消してきた不安が
急に喉元に込み上げてきた。

「ティファ…。泣くんじゃねえよ。
 縁起でもねえぜ?」

バレットの大きな手の感触を、頭の上に感じた。

「…少し、このままで…」

殺伐とした瓦礫だらけの廃墟の中で
ほんのしばらく、わたしは泣いた。
ほんとうに久しぶりに…。

「…ありがと。ごめんね。
 少し泣いたら、かえって楽になったわ。
 ずっと…不安には思っていたの」

「ああ。それはやつも同じだろう。
 ちょっと休ませてくれ、って言ったまま
 どこかに消えちまいやがったんだが…。
 そばにいてやったほうがいいんじゃねえかな」

「どうかしら。
 …でも、そうね。探してみる」

クラウド。
多分…あなたはあそこにいるんでしょうね。



☆  ☆  ☆



その場所で。

予想どおり、わたしはクラウドを見つけた。


小さな花たちが可憐な姿を見せる
みすぼらしい花壇のそばに
彼はうつぶせていた。

かつてあなたが彼女と出会った場所。
そして多分、まだ、彼女のぬくもりの消えていない場所。

そう…かつての五番街の、壊れた教会。


すぐに話しかける勇気がなくて、わたしは一心に彼を見つめた。

泣いているの?

それとも、泣きつかれてねむってしまった?

ねえ、ここにいるよ。わたしは。
ここに…。


「ん…?ティファ?」

ふいに、
ほんとうにふいに、クラウドはこっちを向いて言った。


「あ…ごめんね。じゃま、だった?」

「…なにいってんだ。邪魔なわけないだろ」

「眠ってた?」

「……いや、星の声を聞いていたんだ」

「え…!何か聞こえるの??」

「まさか。エアリスのまねをしてるだけだよ。
 でも、こうしているとなんだか、…落ち着くんだ」

「そう…」

「いっしょに聞かないか?」

…わたしを気づかって、言ってくれてるの?
ほんとはひとりになりたいんじゃない?

ううん。
そんなふうに思うの、やめよう。
クラウドも、そばにいてほしいんだって…。

そう思おう。

となりにうつぶせて、耳を地面によせた。

クラウドが、わたしの方に手をのばして
わたしの髪に触れる…。

わたしは静かにクラウドの方に身を寄せて
青い瞳を覗き込んでみる。

………。
好きな人がそばにいるというのは
どうしてこんなにも安心できるものなのだろう。


「…ティファ…」

「なあに?」

「オレ、もしかしたら」

「いわないで。…聞いたわ。バレットから」

「そう、か」

「恐くない、といったら嘘になる……。
 クラウドがいなくなったら…
 そう思うだけで、ひとりぼっちになった気がする」

「オレもだ…。
 恐いよ。正直。ひとりで死ぬのも。
 ひとりで、取り残されるのも…」


お願い。……ひとりにさせないで。

…祈りで願いがとどくものなら。


「どうしたの?」

眼をつぶっているわたしに、クラウドが聞いた。

「お祈りしているの」

「…あの時も、お祈りしてたね」

「あの時?」

「ここで…最初の花をみつけた時」



……そうね。
あの時は、ほんとうにうれしかった。

戦いの後、廃虚になってしまったこの街で…

瓦礫にうもれた教会の中に、一輪の花をみつけた時。
胸が痛いほどの喜びが湧いてきた…。
どうしてなのか、口では説明できないけれど。


けしていい思い出のある街じゃなかった。

ジェシー、ウェッジ、ビッグス。
死んでしまった仲間たち。
…まきこんでしまった人々がたくさんいる。

だから。


「みんなのために祈りたかったの。
 ここにいなくなってしまった、たくさんの人たち。
 もちろん、エアリスのためにも」

「…オレは…あの花を見た時、
 やっぱり、ここだったんだと思った」

「…『約束の地』?」

「今はまだそうは呼べないかもしれないけど。
 でも、オレにとっては、ここからはじまるんだと思う。
 以前のこの街は、星を蝕んでた。
 オレたちはそれを阻止しようとして、
 罪のない人たちを死なせてしまった…。
 だからこそ、さ。
 ここから、探していかなきゃいけないんだ…」

「…うん。
 きっと…エアリスもそう思ってるよね」

「ああ。多分。
 だから、ときどきこうして星の声をききにくるんだ。
 こうすると、いつでも彼女を感じることができるような
 …そんな気がする…」

「…うん」

「…なあ、ティファ…。
 いっしょに、がんばろう、な?
 先の事は…わからないけど」

「…うん…うん…」



涙があふれた。

でも、その涙は
さっきの涙とは温度がちがっていた。
ひとつぶひとつぶが、
わたしの心を、あたたかく満たした。



エアリス。

見ていて。

わたしたちは、まだ歩きはじめたばかりだわ。

でもけしてあきらめない。
けして絶望しない。





約束の地は

きっと、その向こうに見えてくる。




fin