ちゃちゃさんの作品

約束の地 〜ザックス編〜


    1



    かあちゃん
    返事がおそくなってごめん、元気にやっているよ。
    もうすぐまた昇進審査がある予定だから、がんばるつもりなんだ。
    せっかくソルジャーになれたんだからなー、
    「英雄」とまではいかなくても、ちっとぐらい名のしれた男に
    ならなくちゃな!!

    あ、それから、せっかく、かあちゃんが送ってくれたセーターだけど、
    あれ、オレにはちっちぇーや!!
    また、でかくなっちゃったみたいなんだ。もう20歳なのになー。
    で、ともだちにやっちまっても、いいよな?
    すごいいいやつなんだ。歳はオレよりけっこう下なんだけどさ。
    ガッツがあって、おもしろいやつなんだよ。

    今度休暇があって、都合がつけばそいつ、つれていくよ。
    まあ、なんだかんだ、忙しくてどうなるかわかんないけど。

    じゃあ、また。
    歳なんだから、あんまり無理して働くなよ。
    金はオレが送る分で十分だろ?

                          ザックス




 
 ・・・・・返事が遅くなってごめん、か。

 実はほとんど返事なんてださないくせになあ、オレも調子いいよな。
 神羅の施設軍に入隊してからというもの、なんか毎日訓練とへんな研修とで
 うんざりさせられてばかりだしさ・・・。

 たまの休みは、女の子をひっかけてそこらで遊ぶ、くらいのゆとりしかないもんな。

 あのまま田舎暮らしを続けるなんて、オレの性にあわないのはあきらかだったから、
 後悔とかはしてねーけど・・・なんか違うんだよな。

 なにが違うのか、オレは頭わりぃから、うまく考えまとまんないんだけどさ・・・。
 ま、やるだけのこと、やるっきゃねえよな!


 さて、と。

 オレ達の手紙とかは、一括して事務所があずかって出してくれることになってんで、
 オレは書き上げたこの手紙を持って自室を出た。



 ここ、ジュノンの神羅軍訓練所はおそろしいくらいの規模の演習場と
 兵士達の生活のための施設からなりたっている。

 一般兵は集団生活だが、ソルジャーになれれば個室が与えられるんで、
 待遇自体は悪くない、と、オレは思っているんだが・・・。

 なんせ味気ないことは味気ない。

 男だらけの世界だからねえ。

 一応バーとかもそれなりにあるし、商売女はいっぱいいる訳なんだが、
 そういうのはどうにもねえ、やっぱりこう、心がはずまないっていうか?
 オレはさ、女好きだけど、べつに女の体だけが好きなわけじゃないからさ。

 いっつもかわいい女に優しくしてやりたいし、優しくされたいんだよ。

 損得ぬきでね。

 だから、商売女を相手にするくらいなら、気の合う男友達とつきあうほうがいい。


 
 事務所に手紙をあずけた足で、オレは一般兵士の居住区域に足を運んだ。

  「ようー。悪いなー、またクラウド、呼んでくれないかなー」

 すっかり顔なじみになった管理人に声をかけて、しばらく待つ。

 5分ほどで、みなれたチョコボ頭がこっちに走ってくるのが見えた。

  「ご、ごめん。約束、してたっけ??」

  「いんや、急に一緒にめしでも食おうかなー、って気になっただけだ」

  「なんだ、あせったじゃないか・・・」

 クラウドはオレより4つ年下の一般兵だ。
 でもオレたちははじめからタメで話している。

 そもそもは1年半前・・・。

 オレは異例のスピード出世で、すでにソルジャー・サードになっていた。
 連日の激務も、なんだかいまよりは楽しくて、夜ともなればバーにくり出し
 その日の戦果を自慢しあう・・・そんな毎日。

 ある夜、いやに射るような視線を感じて、その先をたどったら・・・
 やつがいた。
 ・・・これは今もやつには話していないが、
 オレは一瞬、えらい可愛い子がオレに熱い視線を・・・とか思いそうになった。

 いや、きれいな顔してたんだよ。
 ・・・まあ、今もだが・・・。

 ま、さすがのオレもすぐに相手が男だと気づいたし、視線にしたって、
 どう考えても「にらんでいる」って、パワーだったんだけど。

 その証拠にオレの仲間のソルジャーたちは、
 その目つきはなんだとかいうことをいいだして・・・
 あげくに大立ち回りになっちまった。
 またクラウドのやつが・・・かなうわきゃないのに、ひかないやつで。

 気がついたらオレ、クラウドのほうをかばって喧嘩するはめになってたのさ。

 いや、なんせ、クラウドってのは強情なやつだった。
 ・・・まあ、今もだが・・・。

  「いつもの店?」
 
  「ああ。 あ、今日はオレがおごるから」

  「え?いいよ。おごってもらう理由ないし」

 こういうあたり、強情なやつだったりする。

  「ただとはいってねえよ。 あさってからしばらく留守にするからさ。
   裏の野良公の面倒を頼みたくてよ。 その報酬」

 オレは犬が好きなんで、つい野良犬に餌なんかやって、
 なつかれちまってたりするわけさ。
 ま、こんな理由でもつければ、クラウドのやつも素直におごられてくれるしな。


  
 しこたま食って、ほっと息をついたら、なんだか今夜はいやに昔のことが
 話してみたくなった。

  「なあ、クラウド。 初めてあったとき、なんであんなおっそろしい目つきで
   にらんでたわけ?」

  「え? にらんでたあ?? なんだよ、それ」

  「にらんでたじゃねえか」

  「そんなわけ、ないだろ。 俺は・・・その・・あこがれてたんだから・・・」

  「はああ??」

  「だって、あんた異例のスピード出世で有名だったんだぜ・・・。
   セフィロスにつづく、天才型のソルジャーだってさ・・・」

 なるほどね。 負けん気の強いこいつのことだから、あこがれ、ってのが
 ああいう視線になるわけ、か。

  「おい。 じゃあ、まさか、セフィロスに会ったとしても、ああいいう目で
   にらみつけるわけ??」

  「だから、にらんでないって・・。え? セフィロス? はは、なにいってんの。
   会うことなんかないじゃんか」

 わからないぜ。 今度オレが昇格したら、はれてソルジャーファーストだ。

 そして、長いこと、セフィロスのパートナーの席は空いている。
 つりあう実力のやつがいないからさ・・・。

 オレなら、うってつけ、だろう?
 そしてオレが自分の部下にお前を推薦すれば、
 お前はセフィロスの部下でもあることになる。

 ま、昇格できれば、の話だが。

   「お前も昇進審査、早く受けられるといいなあ」

  「・・・・・・・」

 いけね、気にしていることをいっちまったか。

 クラウドは平均の能力数値自体は悪くないんだが、
 いかんせん不安定要素がおおすぎるタイプなんだよな・・。

 一度予備検査の結果数値をみせてもらったが・・・。
 最高数値と最低数値に差がありすぎる。

 特に精神的な攻撃に極端に弱い・・・。
 ソルジャーってやつは「ずぶとい」のが一番、だからなあ・・・。

 とくに・・・あのお方だ。 英雄セフィロス殿。

 ほんというとオレはあの人のパートナーにはなりたいけど、
 まちがってもダチにはなりたくねぇな・・・。
 どうすりゃあんなに無感情・無反応になれるのかね?

 あ、オレも会ったのは一度きりだけどね。
 ソルジャーの研修でめずらしくセフィロスが他の連中と顔をあわせたのよ。
 普段はそんなとこにもめったにでてきやしないんだが。

 おそろしく整った顔をしてるくせに、表情がまったくないもんだから、
 なんともこう、近寄りがたかったね。

 このオレがそうなんだから、ほかの連中なんかもう、びびりまくり。
 セフィロス本人はまったく気にもとめてないみたいだったが・・・。

 かえってこう、いばりちらしてでもいるほうが、まし、みたいなところがあるぜ、
 ああなると。

  「昇進審査、いつ出発なんだ?」

 オレがしばらく黙ってたもんだから、クラウドのほうが話をつないできた。

  「ああ。あさってにな」

  「がんばれよ」

 悔しいだろうな。 なに、素質自体はわるくねぇんだ。 
 かならず、お前はソルジャーになれる。 オレが保証するぜ。
 


 そう、昇進審査はあさってだ。
  
 昇進審査はいつもミッドガルで行われることになっている。
 そのたびに行ってたんで、それなりに友達もできた。

 なかでも、すごくかわいいガールフレンドがいるんだが、
 今度も手紙を出しておいたから・・・。

 きっと会えるな・・・へへ。



   2



 ・・・あいかわらず、ここだけ花が咲くんだなあ・・・。
 オレは足下の花壇をみて不思議な気持ちになった。
 だってよ。日当たりがさほどいいともおもえない、スラムのやぶれ教会の、
 それも床をひっぺがしてつくった花壇だぜ?

 ああ、いいおくれたけど、ここはミッドガル5番スラムのはずれにある教会だ。
 例のガールフレンドとここで会えるはずなんだが・・・。

  「ザックス?」

  「よう!! エアリス! しばらく見ない間に、ますますきれいになったなあ」

  「ふふ。あいかわらずね。・・・昇進審査の方はどう?」

  「ああ、まずまずじゃねぇかな? この年でファーストってのは
   セフィロスくらいしか例がねえから、もしかしたら慎重派のえらい人に反対されて、
   ぽしゃるかもしれねぇが、たぶん・・・」

  「そう・・・」

  「なんだよ、よかったわね、とか、言ってくれないのかい?」

  「だって・・・もっと危険になるんでしょう?」

  「オレの強さを信じないってのか?」

  「そうじゃないけど・・・」

 エアリスは少し首をかたむけて、顔を曇らせた。
 それがひどく可憐だったんで、さすがのオレもちょっとぼーっとなったくらいさ。

  「ねえ、お祈りしない?」

  「はああ??? オレ、神様なんて信じてないぜ?」

  「いいじゃない・・・。私も信じているわけじゃないけど。いのっとけば
   もしかしたら、ひとつくらいはいつかかなうかも。だめでもともとでしょ」

 だめもとねえ・・・。
 そのわりになんか、目がまじだぜ? エアリス・・。
 なんだかな、この娘はどうも、ほかの女の子とちがうよな。
 普段はよく笑うし、無邪気な子供っぽいところが多いんだが、
 ときどき驚くほど大人びた表情をする。

 大人びた・・・? ちょっと違うかな・・・うーん、なんかこう、悟ったというか
 なにかをあきらめてるというか・・・・だめだ、オレにはうまくいえねぇや。

 いえることは、エアリスといると、他の女の子といるときのように、
 楽しいだけじゃないってことだ。
 いつもなんとなく、悲しいというか、寂しい気がするんだよ。

 でもそれが嫌じゃない・・・・。
 どうしてかな。



 ・・・ごく短い間、俺達はそこで「お祈り」をした。

 俺は、俺の知っているやつ、全てのやつのための幸福を祈った。
 どうせなら、でかくでてやらなきゃ、だからな。

  「さて、と」

 祈り終わったエアリスがオレのほうを見て、いたずらっぽく言った。

  「あちらでみなさんが、お・ま・ち・か・ね、みたいですけど?」

 げげげ。
 そうなんだよ。エアリスと出会う前にも何人か女の子をひっかけたんだよなあ・・・。
 みんないい子だし、俺としても誘われれば断れないし。
 第一、エアリスはなんとなく、俺の「彼女」っていう感じのつきあいかた、
 してくれねえし・・。

  「いや、でも、もうちょっと話そうぜ?ひさしぶりなんだしよ」
 
  「ううん、私これからお母さんの用事があって、時間がとれないのよ。
   ごめんなさい」

 ほんとかよ・・・。オレとのデートよりお袋さんのお使いがだいじってか?

  「う〜〜ん、じゃあ、明日、もう少し時間とれるから・・・。
   夜には出発しなくちゃならないんだけど」

  「ええ。またここで」

  「昼頃ならいいか?」

  「待ってるね」

  「じゃあ、な」

 えーと、多分、他の女の子達は6番街のバーだな。
 
 エアリスに背を向けて歩き出したオレは、だけど、一瞬、えらく切ない視線を感じた。

 ・・・なんだよ。素直じゃないな。

 でも、振り返って視界にとらえたエアリスは、ごくおだやかに微笑んでて。

 オレはなにも言えなくなる。

 「愛してるよ」なんて、遊びじゃ何度もいってるのに。
 まじでは全然言えない、オレもガキだぜ・・・。



 翌日。

 審査は無事通過し、オレは、はれてソルジャーファーストとなった。

 いぇい!!

 午前中に辞令をうけとり、おえらいさんおのなんだかんだを聞き・・・

 昼にエアリスと短いデート。

 いや、3時間くらいはいっしょにいたんだが、30分くらいにしか思えなくてさ。
 デートっていったって、例の教会でエアリスのつくった弁当食べながら
 おしゃべりするだけなんだけどな。
 ああ、それもあらかたオレがしゃべりまくっていて、
 エアリスはつきあい程度にはなすだけなんだけどな。

   「おれのダチでよー、チョコボそっくりの頭したおもしろいやつがいるんだ」

   「え?そんなにおばかさんなの?」

   「ちがーーーって。髪型だよ」

   「やだ、いまの、その人にいわないでね」

   「いえねーーって。オレがいいだしたんじゃねーか、チョコボににてるって」
 
   「あ、そうかーー」

   「そいつといっしょに今度新しいガッツポーズをあみだしてさ・・みてろよ」

   「あ。かっこいー!」

   「これかなり腕の力がいるんだぜ。すげーだろー」

   「でもちょっと派手すぎね・・・」

   「うぐ。いいじゃねーーかーー」

 ・・・こんな他愛のない話ばかりさ・・。

 それでも・・・・ちょっと気に入った女の子とメイクラブするより、
 おれには楽しいひとときだったから・・・。
 えらく短く感じたんだろうな。

 エ・ア・リ・ス。

 また会えるよ、な・・・・?


 ジュノンへの道すがら、オレは何度となく
 あの破れ教会のなかで微笑むエアリスの姿を、胸に思い描いた。
 オレらしくもない話だが。



   3

 
 ジュノンでは、クラウドのやつが出迎えてくれていた。
 ふだんは愛想のないやつだが、こういうときはやっぱり親友だぜ。

   「おめでとう!! お前ならやると思ってたよ!」

   「ったりめーだ!! ザックスさまに不可能はない!」

 こいつの顔をみるとなんだかほっとする。
 まちがいなく他人なのに、いっしょにいる違和感がまるでない。
 あるんだな。こういうこと。

 階級が違おうと、力が違おうと、性格が違おうと、

 おれ達は親友だ。




 さて。
 かねてからの念願通り、オレはセフィロスのパートナーとなるべく、
 立候補の名乗りをあげた。

 意外なことに、これはあっさりと受理され、正直オレは不安になった。

 だってよ・・・。
 つまりは誰もやりたがらないってことだろ?
 やっぱりあの「氷のセフィロス」は、噂通り、人間の皮をかぶった殺人鬼なんかな?
 こりゃあ・・・オレのことはともかく、クラウドを部下に、って話は
 少しゆっくり考えてからのほうがいいかもしれんなあ・・・。




 パートナーとしての登録の手続きはその3日後だった。
 ファーストは基地の中でも特別のフロアをつかっている。
 手続きはすべてそのフロアで行われた。
 セフィロスとの顔合わせも同様の予定だった。
 事務手続きなど思い切り上の空で、オレは英雄との対面の時間を待った。
 
 ところが。

 指示された応接室で、いつまで待っても、・・・・きやしねえ・・・。
 英雄様はさすが、重役出勤でいらっしゃる・・などと
 ひがみっぽくなりそうになってから、
 ふと、そういうのは、あんまりセフィロスらしくないような気がしてきた。

 それで、オレはちょっとばかり探検にいくことにしたんだ。
 未知のファースト専用フロアだし。

 英雄セフィロスを求めて、ってなもんで。

 でも、意外にあっさり見つかったんだ。セフィロスは。

 ドアの開け放してある、狭い会議室らしきところから、やつの声が聞こえたからさ。
 一度しか聞いたことのない声なんだが、忘れられない美声ってのかな。
 だからすぐわかった。
 でも・・一瞬あとには、それが本当のセフィロスかどうか、疑ったんだけどな。

   「何度も言わせるな!! 民間人を武力で排除するなど、
    ソルジャーの仕事ではない、といっている!!」

 ・・こんなせりふだったからさ。

   「民間人といっても反乱組織なのですがね・・」

 神羅の幹部らしいやつが答えている。

   「民間人が反乱しなければならない背景になにがあるのか、
    ろくに調査もしてはいまい? 」

   「それこそあなた達の関与することではないでしょう」

 ばん! と大きな音がして。
 一瞬の後に、英雄セフィロス殿が会議室をでてきた・・んだが。
 
 初めてみた。英雄殿の感情的な顔。
 まるで別人のように目が光をはなっていて・・・。

 ぼおっと見てたら、さっさといっちまってさ。
 まあ、オレに気を配るような状況じゃなかったんだけど。ちょっとへこんだな。はは。

 野次馬根性でちらりとのぞいてみたら、英雄殿をあれだけ激怒させたのは
 プレジデント神羅の一人息子、ルーファウスだった。

 いけすかないやつだぜ。
 セフィロスとは別の意味で、絶対ダチにはなりたくねえや。
 第一、根性が俗物くさすぎる。
 きたねー水につかって育つとああなるんかな。

 ん?
 
 英雄殿も確かご幼少の頃から神羅で育ったようなことを聞いた気がするが・・。
 まあ、英雄伝説なんてあてにはならんし。
 少なくとも俗物でもバカでもないことは確かだ。英雄殿は。

 まあもっと知り合ってみなくちゃダチになれるかどうかまではわからんし、
 信用できるかどうかはもっとわからないが。

 あんたをもっと知りたいぜ。英雄セフィロスさんよ。


 結局この日はセフィロスには会えずじまいだった。
 もっとも会えていたとしてもあの状況では、けんもほろろに扱われていたろうから
 案外オレは幸運なんだとおもう。

 で、その運にまかせて、オレはセフィロスのプライベートを直接攻撃することにした。
 ふっふっふ。
 オレが並の男じゃないことをみせてやる、ってなもので。



 こういう場合の必須アイテムは、当然、酒、だ。

 翌日。

 極上のブランデーとワインとを3本ずつ入れた箱をかかえて、
 オレは英雄殿の自室を襲撃した。

   「ちわーーっす。おとどけものです」

 部屋からでてきた英雄殿は、やはり黒い服をきていた。
 さすがに私服ではあったが。

   「なにかの間違えじゃないか?
    誰かからものが届くなんてことはないはずだが・・」

 あり?やはり けんもほろろ?
 でもふつう、いちおう誰からかなーって見てみないか?
 せっかくしゃれで運送会社の伝票までくっつけてきたのにさ。

   「いや・・・実はオレからっす!」

   「?誰だ?お前・・そういえばどこかでみかけたな・・?」

   「きのう、ちょっとすれちがいました。でもまあお初みたいなもんですね。
    はじめまして。セフィロス殿の新しいパートナーという名誉を拝しました
    ザックスってもんです」

   「ああ。そうか。きのうはすまなかった。顔合わせの予定だったんだな。
    あとから聞いた」

 えええーー、あやまられちまったぜ?
 こりゃ、やっぱり見るのと聞くのとでは大違いっ、て、この場合ちがうか?。
 えーと、百聞は一見に、・・ええい、なんでもいいや。

 とにかく、英雄殿はそれほど特別なタカビー野郎というわけでもなさそうだ。

   「いや、それはいいんですが。そんなわけで、昨日会えなかったもんですから、
    失礼とは思いましたが、直に訪問させていただきました。
    これはまあ、手みやげです」

   「・・・理由なく他人からものをうけとるのは断っているんだが・・」

   「あ?じゃあ、オレがここでかかたづけちゃっていいですか?」

   「かたづける??」

   「おじゃましまーす」

   「おい・・・」

 ほうりだされるかと思ったが、そんなことはなかった。
 というわけで、オレはまんまと英雄殿の自室に侵入できたんだ。

 が・・・・。

 なんだ? この部屋??

   「えーーーと、どこに座ればいいんですかね?」

   「ああ、そのへんに・・」

 ま、まあ、そのへんに座るしかないだろうな。
 椅子ひとつないんだから。

 ・・・壁一面のモニター以外、家具はなんにもない部屋だったんだ・・・。

   「あのーー、不便じゃないんですか?家具なくて・・」

   「寝るために帰る部屋だからな・・・」

 まあ、食事はビップ専用の社員食堂があるらしいし
 (社員食堂ったって、変なレストランよりかずっと高級な)
 必要ないだろうけどよ・・。

   「まさか他の部屋もこうですか??」

   「いや・・寝室にベッドが・・」

 そりゃあ・・・それはあるでしょうが・・それだけですかい・・。

   「まあ、いいや。一緒に飲みましょうぜ?酒はいけるんでしょ?」

 そうやってつまみもなしに飲み始めたんだが・・・。


   「あんた・・れんれんよわらいのか??」

   「いや・・これだけ飲んだのははじめてだから、酔っていると思うが」

 思うって・・思うって・・・。
 オレだってかなり強いんらろ・・・?
 だいたいオレのもってきた分らんてとっくに飲んじまっれ、
 あとからブランデー1ダース届けさたろに・・・
 もうあと2本か残ってねえ・・・?

 あんた、あんた異常ら・・・・えいゆ・う殿・・・・。



 気がついたときにはベッドで寝ていた。
 一瞬自分がどこにいるのかわからなかったが、
 ベッド以外なんにもない、殺風景な寝室を見て、
 英雄殿の部屋に奇襲をかけたことを思い出した。

 あれ?
 でもオレ、ちゃんと自分でベッドに入ったっけか?
 いや、それよりオレがここを占領してて、セフィロスはどこで寝てるんだ?

 あわてて部屋をでてみた。

 ・・・英雄殿は・・居間の(そこが居間といえるのなら)
 壁によりかかって眠っていた。
 横にさえなってないんだ。疲れるだろうに・・。

 思わず近づいてみた。
 
 瞬間。

 どえらい殺気とともに、セフィロスが飛び上がった。

   「あ。す、すんません。驚かせて」

 さすがのオレもあせったね。

   「・・・。いや。くせでな・・気にするな」

   「いつもそんなに緊張してるのか?あんた・・」

   「いや・・・そうでもないが・・・こういう物のない部屋なら陰もできないしな」

 ・・・それで家具もおかない?
 
 なんてこった・・・。

 オレは胸が痛くなった。

 残酷すぎるぜ・・・・。
 誰があんたをそんなにした・・・・?

   「とにかく、ベッドで寝てくれ。オレが床で寝るからさ」

   「ああ。じゃあ」

 
 オレははじめて入った他人の部屋ででも爆睡できるからよ・・・。
 事実、翌朝セフィロスに起こされるまで、ほんとオレはぐっすり眠ってしまった。

 だってよ・・・、
 オレたちはモンスターだらけの荒野で野宿してる訳じゃないんだからさ・・・。


 それとも。

 セフィロスにとっては、ここも荒野の一部なのだろうか。



   4


   「ザックス!!!ザーーーーックス!!」

 きたな。
 オレは食いかけの定食のコロッケをつきさしたフォークをもったまま、
 おもわず にやついた。

   「なんだ? クラウド」

   「なんで一般兵の食堂にいるんだよ?! 探したじゃないか!!」

   「だってよー。あっちの食堂は高級にはちがいねーが、うまくねーーんだよ。
    っつーか、口にあわねー」

   「そんなことはどうでもいいよ!! あの人事!なんなんだあれ?!」

   「いやか?」

   「やっぱり、ザックスのさしがねか・・・・。よけいなことすんなよ!!」

   「まあ、落ち着け。みんな見てる。外で話そう」

 そう、オレは自分の部下としてクラウドを引き抜いた。

 それはとりもなおさず、「セフィロスチーム」に配属になるってことでもあったんだ。


   「負けん気が強いのはいいことだが、
    意地になってチャンスを棒にふることはない。
    チャンスをものにできるかどうかはお前の実力にかかってるんだからな」

   「だけど・・・」

   「お互いがんばって出世してやろうぜ!! 故郷に錦をかざってやるのさ!!!」

   「・・・・わかった・・・がんばるよ・・」



 だけど、このとき神羅と世界を巡る情勢は微妙に変化していっていたんだ。

 もともと神羅は一つの大企業が構成している「国」にちかい組織だ。
 おれ達はその私設の軍隊にやとわれている。

 神羅が軍隊をもっているのは、近隣の同じような組織との緊張関係において
 利を得るためだったのだろうが・・・
 ここ数年、向こうの大陸でおこっていた軍事衝突が、
 実は最近、ついに決着したらしい・・。

 くわしくは知らされていない。
 単に「決定的な勝利をおさめた」としか・・・。

 そこでオレたちソルジャーの仕事も、
 大義名分のたつ「戦争としての戦い」ではなくなっていった。
 いまだに抵抗をつづけるいわゆる「反乱分子」の粛正とか、
 ひどい場合は、どうかんがえても、脅しているとしか思えないような
 仕事もあった・・・神羅に、より利益をうむようなシステムにとりこむために。


 ようやく、オレはセフィロスがなぜあの日、あそこまで怒りを燃やしていたか、
 知ることになった。
 ・・・ほんとにこれは「ソルジャーの仕事」じゃねえ・・。


 一方、クラウドのほうにはまた別の大問題がもちあがった。

 これまでは訓練中心だったんで、ほとんど移動らしい移動がなかったんだが、
 ソルジャーのチームにはいって行動をともにするとなると、
 当然すごく移動がおおくなった。
 それも大揺れするトラックでの。

 ところが・・・やつはひどい車酔いの持病の持ち主だった・・・。
 移動のある日はなにも食えないありさまで、当然力がでるわけもなく、
 いってしまえばお荷物になりがち・・・という、
 かわいそうな状況になっちまったわけで・・。


 その日もクラウドはそんな状態だったんだが・・。

 モンスターの大群にトラックがおそわれた。
 どうやらやつらが餌をもとめて大移動するのとぶつかっちまったみたいでよ。

 ドラゴン級のモンスターってわけじゃないが、数が数だった。

   「下がってろ!クラウド!」

   「大丈夫! こんな数、ひとりでも多く戦わなきゃ、倒せないよ!!」

 だって、てめえはさっきまでそこらでげーげー胃液を吐き戻してたじゃねえかよ!

 ああ!!くそっ。

 それでも、もともと素質のあるやつだから、クラウドはけっこう善戦していた。
 その姿に、オレはちょっと安心し、前方の敵に集中したんだが・・・。

 オレの判断ミスだった。

 クラウドのそばから離れるべきじゃなかったんだ。
 いくら素質があったって、ジェノバ細胞を移植されて強化された、
 おれ達ソルジャーとは、全然違うんだから・・。

 気がついた時にはもうやつはモンスターに見事にかこまれちまってた。

   「クラウド!!!」

 バカ野郎!!もっとはやくオレを呼べ!!

 全速力でやつのところへ駆け寄ろうとした。
 が、まるで悪夢のように、
 10体ものモンスターがいっせいにクラウドにおどりかかる映像が、
 オレの視界を絶望の色に染めた。

 やめろ!!
 この畜生どもがああ!!!

 どういう叫びをあげたか、自分でもよく覚えてない。
 
 その一瞬後。

 ひらり、と、長い白い弧が視界をよぎり・・・あたり一面が血に染まった。

 その血をあびて呆然としているクラウド。

 そして。

 長い正宗からひと振りでモンスターの血をはらったセフィロスは、
 すぐまた前方のモンスターの群の方へ軽々と跳躍していった。


   「大丈夫か?」

   「・・・。」

   「どこか怪我したのか?」

   「とてもかなわない・・・」

 え?

 かなわないって・・・英雄セフィロスにか?

 ・・・・ほんとにこいつはむこうみずなやつだ・・・。
 おまえ、あの人と同じレベルを目指してたわけか・・・。

 まあ、それはオレだってそうだけどな。

 でも・・・それよりも驚いたのは・・・
 セフィロスがわざわざ後退してまでクラウドを助けたことだ。

 一般兵の命なんて、ものの数にもいれていない、って噂だったから・・・。



  
   5



   「新しい任務が来た。明日出発だ」

 任務の連絡はいつも唐突にセフィロスのほうから入った。
 この場合も同じだった。

   「あ、そう?今度はどういう?」

   「移動の時間が長いから、おいおい説明する。今日はもう休め」

   「へいへい」

 部下全員に集合時刻を知らせたオレだが、ついでにクラウドのやつを飯にさそった。
 遠征にでちまうとやつは車酔いでろくにものが食えなくなるからな。
 もっとも携行用のレーションなんてたとえ元気でも食う気のしなくなるような
 くそまずいもんだがよ。


   「ザックスはセフィロスとも一緒に食事することあるの?」

   「あ?いや、めったにないな。VIP用の食堂あんまいかねーし」

   「はは、そうだったね」

   「なんだ?セフィロス個人に興味があるのか?」

   「え?いや・・・ないはずないけど・・・なんかこう、聞いてたイメージとは
    少し違うから」

   「そうだな・・。2回ばかり、あの人の部屋で飲んだことがあるぜ」
 
   「ええ?! まじ??」

   「ああ。まあ、おしかけたんだが」

   「それでもすごい・・・」

   「はは、まあ強引さの勝利だな」

   「あのさ、俺・・・あの時助けてもらったこと、ちゃんとお礼いってないんだ」

   「ああ、オレからいっておいたよ。お前は俺の親友だし、部下でもあるしな」

   「そうか。ありがとう・・」

   「なにいってんだ、お前とオレの仲じゃないか」

 気持ちよく飲んで、ちょっとばかり飲み過ぎて、帰路にについたんだが・・
 しばらくいったところで、ちょっとしたハプニングがおきた。

   「ザックス、か?」

   「へ? うわ!」

 英雄殿とばったりであっちまったんだ。

   「明日から任務だというのに、なんだ、その有様は」

   「セ、セフィロス。あんただって・・」

   「おれは本部から呼び出されたんだ。なにやら指示の変更だとかでな」

   「ゲゲ」

   「おい、おまえ。なんといったかな?」

   「あ。クラウド、です」

   「こいつがこれ以上はめをはずさないようにしっかりみはっておけ」

   「はい。すみません・・」

 英雄殿は、いうだけいうと、さっさと引き上げていった。
 まったく、心臓にわるいぜ。


 

 翌朝。

 大きな呼び出し音で目が覚めた。

   「ちくしょーー、どこのどいつだ。こんな早く・・・」

 モニターを写すと・・・ひややかな表情のセフィロスが・・。

   「目が覚めたか?」

 うえええ・・・。

   「ああ、なんとか」

   「遅刻するなよ」

 ははは、意外におせっかいなやつだったんだな。まいったぜ。



 さて、今回も移動はトラックだ。

 おまけに悪天候。クラウドのやつは2・3時間でへろへろ状態だ・・気の毒に。

   「すごい雨だな。おい、気分はどうだ?」

   「・・・・だいじょうぶ」

   「オレは車酔いなんてなったことないからな。よくわからないんだ」

 大丈夫、っていうわりには、クラウドはえらくぐったりしている。

   「そんなマスク、とっちゃえよ。・・・すこしはよくなるかもしれないぜ」

   「うん・・・」

 クラウドは素直にマスクをはずした。・・・やっぱり顔が青い。
 まあ、こればっかりはどうしょうもないがなあ。
 薬もほとんどきかねえときてるし・・・。

 なんとなく落ち着かない気分で、オレは他の部下にも声をかけた。

   「準備はいいか?」

   「おい。おまえ。もうすこしおちつけ」

 あやや、英雄殿にまたおこられちまったぜ。

   「新しいマテリア、支給されたんだ。早く使ってみたくて。おちつかなくてさ」

   「・・・子供か。おまえは」

 すみませんねえ。子供で。

 いや、でも、落ち着かない本当の理由はそんなことではない気がする。

 なんなんだろう・・・この気分。

   「なあ、そろそろ今回の仕事教えてくれよ」

 そう、そのせいで落ち着かないのかもしれないからさ。

   「・・・今回の任務はいつもとはちがう」

   「それはうれしいね!」

   「どうしてだ?」

   「オレはあんたみたいになりたくてソルジャーになったんだ。
    それなのにクラスファーストに昇格したのと同時に戦争が終わってしまった。
    オレがヒーローになるチャンスが減ってしまったわけさ。
    だからそういうチャンスがあるならオレは絶対モノにしてみせる。
    な?どんな気分だ? 英雄セフィロスさんよ?」

 ちょっと、ちゃかしていってやった。

 前から気にはなっていたんだ。

 「英雄」って言葉を、セフィロス自身がどうとらえているのか。

 ・・・セフィロスは微妙に苦笑して、結局これには答えてくれなかった。

   「・・・おまえ、今回の任務が知りたかったんじゃないのか?
    今回の任務は老朽化した魔晄炉の調査だ。異常動作をおこしているうえに
    凶暴なモンスターが発生している。
    そいつらを始末しつつ原因を見つけだし、排除する」

 ふむ。なるほど。

   「凶暴なモンスター・・・場所はどこだ?」

   「ニブルヘイムの魔晄炉だ」

 え?ニブルヘイム??

   「ニブルヘイムって、クラウド、お前の故郷じゃないか?」

 ふりかえって聞くと、クラウドはひどく複雑な表情をしていた。
 なんで答えないのか聞き返そうとしたとき、

 ふいにセフィロスがいった。
 
   「そうか。故郷か」

 は? なんであんたまで複雑な表情をしてるんだ?
 
 だけどこのとき、いきなりばかでかいドラゴンがおそいかかってきて。
 話はおあづけになっちまった。

 ドラゴンてやつは、まあ、とにかくばかでかいのがつらい。
 オレは直接攻撃派だからなあ。

 もっとも相手は一体。
 セフィロスがいりゃあ、なんの心配もなかったが。

 事実、5分でカタがついた。

 まったく、あんた化け物だぜ。そういう意味じゃな・・・。



   「あと3時間ほどで到着です」

 部下の報告に、セフィロスが頷く。

   「あ。セフィロス。ちょっとここらで休まないか?
    ニブルへの道はたしかここから山越えだろ?」

   「ああ。そうするか」

 もちろんクラウドのことを考えての提案だったが、
 セフィロスはあっさり許可して、車を止めさせてくれた。

 こういうあたり、英雄殿は噂に聞く冷血漢じゃないと思うぜ・・・。

   「おい。ちょっと外の空気を吸おうぜ」

   「うん・・・」

 オレはクラウドをつれてトラックを降りた。
 いや、さっきの、ニブルの話になったときの複雑な表情が気になったからさ・・。

   「なあ、帰りたくないのか?ニブルへ」

   「・・・・・」

   「なんでだ?なにかあったのか?」

   「帰るときはソルジャーになったとき、って決めていたんだ」

   「あ?」

   「みんなに・・・あわせる顔がない・・・
    ソルジャーになんてなれなかった・・・」

   「まだこれからだろ? お前いくつだよ? 16? 17だっけか?
    身長だってまだこれからのびるだろうし、力だって・・・」

   「無理だよ・・・。
    トラックにのっただけで使い物にならなくなるソルジャーなんて・・・
    お笑いだ・・・」

 ・・・えらく落ち込んでやがるなあ。

   「あのよー、オレは最近、ソルジャーなんて、いらない世の中も悪くないなっては
    思うんだ」

   「え?」

   「あいつ・・・セフィロスをみてるとなあ・・・。
   こんなこと続けて一生を送るのはいいことじゃないって・・・
    ・・・そんな気がするのさ」

   「・・・・」


 クラウドは黙っていた。
 オレもそれ以上いわずにトラックに引き上げた。

 ・・・・オレ自身にも本当はよくわからないことだったし・・・。

 ただ、いえることは、オレたちにはまだまだ未来がある、ってことだ。
 
 少しばかり人生の寄り道をしたり
 多少の失敗をしたりしても

 きっとやり直しはきく。

 前を向いて生きていこうぜ。
 ・・・・いっしょに泣いたり笑ったりしながら、さ。

 トモダチ、だろ?

 な。クラウド。



後編につづく