ちゃちゃさんの作品

 


   6


 ニブルヘイム、っていう村は、陰気な山に囲まれたところだった。
 ・・・たしかになんか出そうだ・・・あの山は・・・・。

   「どんな気分なんだ? ひさしぶりの故郷なんだろう?」

 セフィロスがクラウドにきいた。

   「どんな気分がするものなんだ?
    おれには故郷がないからわからないんだ・・・・・」

 ・・・こんな話は、セフィロスにはめずらしい・・・。

 だが、これはクラウドには酷な質問ってもんだ。

   「ええと・・・あんた、両親はどうしたんだい?」

 助け船を出してやった。

   「母の名は・・・ジェノバ。 おれを生んですぐに死んだ。
    父は・・・・・・・」

 そこまで言って、ふと、セフィロスは唇をゆがめた。
 自嘲的な笑いに・・・。

   「・・・おれは何を話してるんだ・・・・・。 さあ、行こうか。
    ・・・魔晄のにおいがするな・・・・」

 背を向けたセフィロスの後ろ姿には、なんだか全てを拒絶するような雰囲気があった。

 けして開かれない扉。

 けして乗り越えられない壁。

 そんなモノをオレは連想した。


 
 村の入り口につくと、女の子がひとり走ってきた。

 ・・・なかなかの美人だ。
 色白で長い黒髪。おまけに・・けっこうナイスバディだな・・・。

 なんて、思わず見とれたオレさまだったが、

 後ろにいたクラウドのやつ、なぜかあわててマスクをかぶりやがる。

   「なにやってんだ?」

   「いいじゃないか、ザックスに関係ないよ。
    ・・・うろうろしてるとまたおこられるよ?」

 ふうん・・・なるほどね。

 たぶん、あの娘に約束したんだろう。
 神羅のソルジャーになって帰ってくると・・・・。

 だけどなあ、そういうのはほんとに惚れたら関係ないもんだぜ?

 恋なんて、理屈じゃない。
 強い男だろうが、そうじゃなかろうが・・・・。
 まあ、そのうちわかるさ。


   「宿はこちらですから」

 女の子に案内されて宿についた。

   「みはりなど ひとりでいい。 交代でやすめ」

 そういったセフィロスは、もういつもとかわらない雰囲気だった。


   「ザックス、ベッドが一つ足りないみたいだ・・・」

   「あ?じゃあ宿のもんにいって・・・」

 クラウドに相談されて、そう答えかけたんだが・・・。

   「実家があるんだろう?
    今夜は家に帰っていいぞ。 昔の知り合いとかにも会ってこい。
    こっちへは明日の朝、合流すればいいからな」

 気をまわしてくれたんだろう、セフィロスがわきからそう言った。
 
   「いえ・・任務中ですから・・・」

   「母親は健在か?」

   「あ。はい。父は幼い頃、他界しましたが・・・」

   「なら、これは命令だ。帰って母親に顔をみせてこい」

   「・・・・はい」

 そういうわけで、クラウドは家へ帰っていった。

 んーー、いっしょにバーで飲もうかと思ったんだが・・・。
 じゃあ、思い切って・・・。

   「よう、セフィロス。バーにいかねえ?」

   「・・・・明日は早い。もう休んだ方がいいぞ」

   「まだ宵の口だよ」

   「明日は起こしてやらないぞ」

 ははは。いわれちった・・・。

 でもまあ、それでおとなしくおねんね、ってのは
 オレらしくない、ってなもので・・・まあひとりでくりだしたわけだ。

 ・・・村の奥でへんに大きい屋敷を見つけた。

 あ、聞いたことがある・・・。

 なんでも神羅の研究者のもちものだ・・・。
 気持ち悪いな、なんとなく・・・。化け物屋敷みてえ・・・。

 陰気な村だったが、酒場はわりにいい雰囲気だった。
 けっこうかわいい女の子もいてさ・・・へへへ。



 翌日。


 目が覚めてあせった・・。

 まじ起こしてくれねえでやんの。
 あわてて朝食をかきこみ、外に走り出た。

 ・・・例の化け物屋敷の前で、一同はもう打ち合わせ中だった・・。

 やっべえーー。

 横目でにらんでいるセフィロスに、ちょっと頭をかいて見せて・・・
 ふとその隣をみたら、なんときのうのかわいこちゃんがいる。

   「えー、この美人さんは?」

   「ガイドだ」

 はあ?大丈夫なのかよ?

   「セフィロス、聞いてくれ。もしものことがあったら・・・」

 彼女の父親らしき男が心配そうにいった。そりゃ・・心配だよなあ。

   「・・・安心してくれ」

 セフィロスが答える。

   「だいじょうぶだから、パパ! つよ〜〜いソルジャーが二人もいるのよ。
    ティファです。よろしくお願いします!」

   「ほんとに大丈夫かい? 化け物もでるぜ?」
 
 思わずきいちまった。

   「この村で一番のガイドは、わたしですもん」

   「おまえが守ってやれば問題はなかろう。・・・では行こうか」

 まあ、ね。
 でもその役はクラウドにやらせてやりてえな。

   「すみません!セフィロスさん!」

 いきなりカメラをかかえたひょろっとした男が飛び出してきた。

   「写真・・写真をいちまい〜」

 やれやれ。

   「写真ならオレのをとらせてやるぜ?」

 どう考えてもセフィロスがいやがりそうだったんで、いってやったんだが。

   「・・・わたくし、有名人の写真を集めるのが趣味でして・・」

 んだと!んのやろう!!

   「ティファ〜〜、一緒に頼んでよお〜」

   「はいはい・・。すみませんが、一緒にお写真・・お願いできませんか?」

 お。ちゃっかり英雄殿といっしょに写る気だな、この子。
 はは。おもしろい子だなあ。

   「あのー、そちらのかたも一緒にお願いできます?」

 おや。オレもいいのかい? お嬢さんは気が利くねー。
 じゃまあ、遠慮なく・・。

   「いきますよ〜!はい、どうも!
    写真できたら、みなさんにさしあげますからね!」

 そうやって一緒に写真におさまったんだが、この間、クラウドのやつは
 ずっとむこうを向いたままだった。

 バカだなあ・・・ほんとのこと、いっちまって、一緒に写ればいい記念なのによ・・。



 さて。

 ニブル山ってとこは、案の定、けっこう嫌なばけもんがわんさとでてくる所だった。

 ティファちゃんの警護をクラウドともう一人の一般兵にまかせ、
 おれとセフィロスはモンスターをぶち殺しまくった。

 長い吊り橋にかかったときだ。

 突然前後からモンスターがおそってきた!

 モンスター自体はおそれるにたりないやつらだったが・・・

 その重みに吊り橋が耐えられなかったのが最悪だった。

 あっという間に下の川に投げ出されていた・・・オレたち全員。


 なんとか岸にはい上がって・・・。
 あとから泳いできたティファちゃんを助け上げたところに、
 セフィロスとクラウドがやってきた。

   「無事のようだな。元の場所まで戻れるのか?」

 セフィロスの問いかけにティファちゃんが答える。

   「このへんの洞窟はアリの巣みたいに入り組んでいるから・・・・・。
    それにセフィロスさん。 一人、姿が見えないようですけど・・・」

   「冷たいようだが、さがしている時間はない。
    さあ、戻れないなら、先にすすむぞ」

 え?ほんとかよ?部下を見捨てるのか?

 あわててセフィロスを引き止めようとしたオレの腕を、クラウドが掴んだ。

   「なんだ?」

 クラウドは答えず、黙って首を振る。

 そうか・・・死んじまったのか・・・。
 ティファちゃんのショックを考えて、あえて言わなかったってわけなんだな・・・。



 その、アリの巣状の洞窟をどれだけ通り抜けただろうか。
 ようやくオレたちは魔晄炉にたどりついた。

   「ついたわ。ずいぶん遠回りしちゃったけどね」

   「ティファちゃんはここで待っていてくれよな。悪いけど」

 クラウドとふたりでさ。

   「私も中へ行く! 見たい!」

 おやま。好奇心が強いなあ。

   「この中は一般人立入禁止だ。神羅の企業秘密でいっぱいだからな」

   「でも!」

 うひゃあ。セフィロスにまで食い下がる気か? 強いなあ〜、ははは。

   「おじょうさんを守ってやれ」

 クラウドにそれだけ言うと、彼女にはそれ以上かまわず先を急ぐセフィロスに続いて、
 オレも中へと進んだ。


 なにやら禍々しい雰囲気をかもしだしている、
 その魔晄炉の中に・・・・。



 
  7



 奥へとすすむと・・・変な部屋にたどりついた。

 通常の魔晄炉には、こんな部屋はない・・・・。

 なんだ?

 ドアにはパスワードが必要な電子ロックがかけられていたが、
 そこはそれ、ソルジャーともなれば、そのくらいは簡単に開けられるのさ。



 ・・・・・中は・・・・

 不気味なカプセルの群だった。

 そのつきあたりには、さらに奥へと続くドア・・・。

   「JENOVA・・・なんだろう。ロックは・・・ちっ、あかないか」

 こっちのロックはそう簡単にいく代物じゃなかった。
 特殊な組み合わせのコード暗号がいるらしい。

   「異常動作の原因はこれだな。この部分が壊れているんだ・・」

 セフィロスはまじめに故障原因を探っている。

   「ザックス。バルブを閉じてくれ」

 へいへい。

   「なぜ壊れたんだ・・・」

 こういうあたり、仕事熱心だよなーー、ほんと。

 感心していたオレを、いきなりの嘲笑が驚かせた。

 むろん、セフィロスの・・・・。

   「わかったよ、宝条。 でもな、こんなことしたって、
    あんたはガスと博士にはかなわないのさ」

   「???どうしたんだい?いったい」

 宝条・・・聞いた名前だな・・
 ああ、来る途中、魔晄の泉のところでそんなことをいっていたな、セフィロスが。
 ・・なんでも人の研究をよこどりした二流の科学者だとか・・・。

   「おい。この中を見てみろ」

 カプセルか?

 ・・・・・・!!!!

   「な、なんなんだ?!これは??!」

   「・・・ふつうのソルジャーは魔晄を浴びた人間だ。
    一般人とはちがうが、それでも人間なんだ。しかし、こいつらはなんだ?
    くらべものにならない高密度の魔晄にさらされている・・・」

   「・・・・これは・・モンスターなのか?」

   「そうだ・・。モンスターを作り出したのは、神羅の宝条。
    魔晄エネルギーのつくりだす異形の生物。
    それがモンスターの正体・・・・・・・」

 セフィロスの言葉に、オレは愕然とした・・・・・。
 いったい・・なんのために・・・・・?
 そして、セフィロスはさらにとんでもないことを言い出した。

   「・・・・まさか、おれも?
    ・・・おれはこうして生み出されたのか?
    おれは・・おれはモンスターと同じだというのか・・・?」

   「セ、セフィロス。そんなわきゃ、ねえだろ?あんたは人間だ。
    オレはそれをよく知ってるぜ?」

   「おまえもみただろう・・・この中にいるやつらだって、もとは人間だ」

   「そ、それは・・」

   「子供の頃からおれは感じていた。おれは他のやつらとはちがう・・・。
    おれは、特別な存在なのだと思っていた。
    しかし、それは・・・・・・それはこんな意味じゃない」

   「セフィロス。落ち着いてくれ。あんたらしくもない・・・。
    とにかく、村に戻ろう・・・調査は終わったんだ」

 

 その後、オレたちは村にもどってきたんだが・・・・
 
 セフィロスは宿にこもって誰とも言葉を交わさなかった。
 そうして・・・・三日後。

 セフィロスの姿が見えなくなった。

 村から出た痕跡はなかった。
 出入り口は誰かしらがみはっていたから、その点はまちがいなかったんだ。

 村人たちにも協力してもらって捜索して・・・・・

 みつかったのは、例の化け物屋敷・・ここでは神羅屋敷とよばれているらしい・・・
 その地下の隠し部屋だった・・・。

 その部屋には膨大な量の書物やらなんやらの資料にうもれていた。
 そればかりでなく、なんだかきもちのわるい装置がいろいろあったが・・・。

 セフィロスはそのなかで、むさぼるように資料を読んでいた。

   「なあ、何を調べているんだ? 手伝うぜ?」

 いってみたが、やつは黙って首をふるだけだった。

 いいようのない不安がオレの中に生まれてきた・・・。

 だが、強引に連れ出そうとしても、セフィロスはがんとして拒絶した。

 いままでこんなことなかったのによ・・・。

 ほうっておくと食事もとろうとしないので、部下にはこばせて・・・
 オレは・・・待つことにしたんだ。

 セフィロスが納得のいく答えをだすまで、な。

 だって・・どうやら やつは自分の出自を調べているらしかったから。
 
 自分がどこの誰で、どういう経過で神羅の組織で育てられたのか。
 多分・・・戦災孤児かなんかだと思うんだ、オレは。
 で、才能を発見されて特殊教育をうけるようになったんじゃねえかなあ。

 だから、その経過がもしはっきりすれば、
 セフィロスが抱えている、・・・・・孤独、っていっていいかな、

 それが少しは癒されるかもしれない、と。

 そうおもったからさ。

 だが。


   「ザックス。きてくれ」

 クラウドが困惑した表情で俺を呼びにきたのは、セフィロスがそうやって
 地下にたてこもって、何日たった頃だったろうか。

   「なんだ?」

   「セフィロスの様子が変なんだ」

   「変にもなるだろうさ」

 オレは魔晄炉で見たモノにについて、クラウドに話して聞かせた。

   「そ・そんなことが・・・」

   「信じたくはねえだろうが、これはこの目でみたことだからよ。
    ・・いつまでも神羅にいるのは考え物かもしれねえな」

 クラウドはショックだったらしく、しばらく考え込んでいたが
 やがて顔を上げて言った。

   「それにしてもセフィロスはへんだ。
    同じことばかり繰り返していってるし・・・」

   「? なんて?」

   「おれはセトラの末裔なんだ」

   「は? なんだ?それ」

   「わからないよ、俺には」


 嫌な予感がした。

 あわてて地下に駆け下りたオレが目にしたモノは・・・。

 その瞳の中に、禍々しいまでに憎しみの光をたたえた・・・

 セフィロス・・・その人だった。


   「セフィロス!!」

   「フッ。・・・何も知らない愚かな裏切り者よ・・・」

   「なんだと!? オレが、このザックスさまが、いつあんたを裏切った?!」

   「裏切りものなのさ・・・おまえらはすべて。
    教えてやろう・・・。
    この星はもともとセトラのものだった。セトラは旅をする民族。
    ・・つらく、厳しい旅の果てに約束の地をしり、至上の幸福を見つける。
    だが、旅をきらい、安楽な生活をもとめ、星に定住したものたちがいた・・。
    おまえたちの祖先だ・・・。
    セトラと星のつくりだしたものを奪い、なにも返そうとはしない・・」

   「セフィロス・・・」

   「ジェノバ計画というのを聞いたことがあるか?偉大な研究者、ガスト博士が
    すすめていた古代種の復活をかけたプロジェクトだ・・・。
    2000年前の地層から発見された古代種ジェノバ・・。
    古代種を復活させるプロジェクトが考案された。
    そうやってつくりだされたのが、このおれだ」

   「つ、つくりだされた?!」

 ・・・それがほんとうなら、セフィロスの両親は・・・?
 
 どこかにあるはずの・・・・故郷は・・・?

   「・・・セフィロス。そんなバカなことありえねえぜ?
    人間である以上、あんたの親はどっかにいたはずさ。
    なんにもないところから、人間が生まれてくるはずねえよ」

   「だが。私の母はジェノバ、だ」

 わからねえ。なんなんだ、そのジェノバってのはよ??

   「邪魔するな。おれは母に会いに行く」

 オレの制止をふりはらい、後ろについてきていたクラウドをつきとばして、
 セフィロスは出ていってしまった。

   「やばいぜ、英雄殿はほんとにどうかしちまったらしい!!」

   「急ごう!!ザックス!!」


 ・・・だが。

 外へ出るとそこはすでに火の海だった・・・・・。

 貧しい村だ。
 ファイガの2・3発でひとたまりもない・・・。

 あちこちにたおれている人々・・・・無惨な刀傷・・・・・


 嘘だろ?

 嘘だっていってくれよ。

 ・・・・・セフィロス・・・・。



   「おっ!!あんたか!あんたは正気なんだろうな。 
    それなら、こっちを手伝ってくれ!!」

 村人に言われて、ようやく我にかえった。

   「クラウド! おまえはかあちゃんを守れ!!こっちはオレが」

   「ああ!! 頼む!!」

 クラウドは家へ走り、オレは倒れている村人を助け起こそうとしたが・・・。

 致命傷だった・・・。

   「な、なあ、お・・・おれ、死んじゃうの・・・?」

 ・・・・あの、写真好きの男だった。

   「大丈夫だ。無理に動くな」

   「セ、セフィロス・・・・」

 それが、この男の最後の言葉になった。
 無邪気に英雄の写真を喜んでいた、この男の・・・・・・。

   「ひどい・・・・セフィロス・・・・ひどすぎる・・・・」

 クラウドの声にあわてて振り向いた。

 クラウドは・・・・・・涙をぬぐおうともせず、泣いていた。

   「この人がなにをしたっていうんだ・・・」

 クラウドはそういったが、涙が母の死によるものであるのは、明らかだった。

 おれは、クラウドの頭を力いっぱい抱きしめた。

 しかし、慰めの言葉をかける暇もなかった。
 通りをへだてたあちら側から、すさまじい悲鳴が聞こえたからだ。

 そして。

 燃えさかる紅蓮の炎の中で・・・・セフィロスが村人を一刀両断にするところを・・・ 
 ・・・・・オレは見た。

 スローモーションの映画のようだった。

 ゆっくりと・・・セフィロスがこちらを向いた。
 
 伏せていた瞳をあげ・・・・・

 その目がオレをとらえた瞬間、オレは悟らざるをえなかった・・・。

 もうこれは、オレの知っているあのセフィロスではない。

 
 ・・・・・なにがあんたをこんなにした?

 ・・・・・誰があんたを・・・・・。


 その場を動けないオレたちを残し、セフィロスはニブル山の方向へ消えた。


 
   「クラウド・・・。おそらくやつは魔晄炉に向かう気だ。
    あの奥にはジェノバ、とかかれた部屋があった。
    オレはやつの後を追う・・・・お前も来るか?」

 無言で、だが強い意志をこめた調子で、クラウドがうなずく。

 そうだ。お前の手でかたきをうて。

 だが・・・オレも手を貸そう。

 お前だけのためだけじゃない・・・・。
 ・・・・ほうっておいたらとんでもないことになる気がする。

 それに・・・もうオレがあいつに・・セフィロスにしてやれることは・・・
 それだけだろうから・・・・。

 解放してやりたいんだ・・・・。

 あいつを。 あの炎のような狂気から。




   8



 
 ニブル山の魔晄炉に続く道筋は、モンスターと人との死体の山だった・・・。
 
 ・・・魔晄炉にたどりつき、例の部屋の手前にさしかかるあたりで、
 オレたちは意外な人物が倒れているのを発見した。

 ティファの父だった。
 なぜ彼がここに来たのかはわからない。
 ・・・聡明そうな人物だった。
 あるいは神羅の秘密に薄々気づいて、それを確かめようとしていたのかもしれない。

 ・・・すでに息はなく、聞くすべはなかったが・・・。

 ・・・・そして。

 奥の部屋へと足を踏み入れたオレたちが目にしたものは・・・

 血だらけのティファだった。

   「テ、ティファ?!」

 駆け寄ったクラウドが、抱き起こして声をかけたが・・・。

   「ピ、ピンチの時はきてくれるって・・約束し・・た・・のに」

 それきりティファは答えなくなった・・・・。

   「ティファ!ティファーー!!」

 クラウドの悲痛な呼びかけが胸に痛かった。



 ・・・セフィロス・・・もう終わりにしねえとな・・・。
 
 クラウドをそこにおいたまま、オレはさらに奥の部屋へと足を運んだ。

 この間来たときには、かたく閉ざされていたJENOVAと記されたドアが、
 いまは開け放たれていたからだ・・・・・。


 予想通り、そこに、セフィロスはいた。
 見たこともない妙な機械と合体した、かろうじて人の形にみえる、何かにむかって、
 やつは熱心に語りかけていた。

   「母さん、いっしょにこの星をとりもどそうよ。おれ、いいことを考えたんだよ。
    ・・・約束の地へいこう」

 ・・・約束の地・・・?
 至上の幸福を知る・・・とかいう?

 だけどよ・・・セフィロス・・・。

 そいつが・・・その機械のクダをうじゃうじゃくっつけた、
 得体の知れねえばけもんが・・・
 ・・・「かあさん」だって言うのかい?

 哀れすぎるぜ・・・・あんたの孤独はそこまで深かったのか・・・・。


 ・・・・つかのま・・オレの心の中を、幼い日の情景がよぎっていった。

 ゴンガガの真っ赤な夕日。
 ドロだらけのオレを、「ごはんだよ」と、呼ぶかあちゃんのでっかい声・・・。


 その時。 

   「セフィロス! 俺の家族を! おれの故郷を! よくもやってくれたな!」

 クラウドの叫び声で、オレは我にかえった。

   「クックック・・。かあさん、またやつらが来たよ・・・。
    なんのとりえもない、アイツラが、かあさんからこの星を奪ったんだよね。
    ・・・でも、もう悲しまないで」

   「俺の悲しみはどうしてくれる?家族を!故郷を!友達を!
    奪われた俺の悲しみは! あんたの悲しみと同じだ!」

   「・・・悲しみ?・・・何を悲しむ?
    この星の支配者となる、選ばれた存在である、このおれが・・・・」

 悲しんでるじゃねえか。
 ・・・・悲しいから、そんなもんにならないといられないんだろ?

 あんたはもともと「支配者」になぞ、興味がなかったじゃねえか・・。

 そうじゃなきゃ、あんたほどの才覚があればとっくに神羅を支配してただろうよ。


   「セフィロス・・・尊敬していたのに・・あこがれていたのに・・・!
    いや!! あんたはもう俺の知っているセフィロスじゃない!!」

 クラウドが剣をかまえた。

 ああ。それはその通りだ・・・!

 オレもソードをかまえた。が、

 すでに予想していたんだろう、セフィロスのはなったブリザガを、
 オレ達はもろにうけることになった。

   「ククク・・・お前らごときに・・・」

 ・・・たしかに、あんたには得体のしれねえ力がある・・・。

 けどよ。オレにはあんたにはないもんがある・・・・。

 いくぜ・・・!

 全神経を集中して最初の一撃にかけた。

 セフィロスに弱点があるとすれば、正宗の刀身の長さだ。
 リーチは長いが、瞬発性にやや劣る。

 スピードを生かした先制攻撃だけが、オレに残された可能性だった。


 それなのに。

 「もらった」っと思った瞬間、オレはやつの目をみちまった。

 狂気の光のうらにある、心の闇をうつしたその瞳を。

 ・・・・ふりおろしたソードは・・・やつの急所をわずかにそれた。


 一瞬後、オレはやけつくような熱を体にうけた。

 正宗の長い刃が・・・・オレの体を貫いていたんだ・・・。

   「ザックスーー!!!!」

 クラウドの叫び声・・・。

 ・・・正宗の火のような感触は、そのままセフィロスの「いかり」の強さだった。
 絶望と悲しみが転化した・・・はげしい「いかり」。

 すべてのものを焼き尽くそうとするかのように・・・それは熱かった。

 が、オレがやつに与えたダメージもかなりのものではあったらしい。

 オレから正宗を引き抜いたセフィロスが、
 よろめきながらも、部屋の外へ向かうのが見えた・・・。

 全身から力がぬけていく・・・。
 オレはその場にくずおれた。

   「ザックス!死ぬな。死んだらだめだ!」

 クラウド・・・。

   「いいか・・お前にしかできない・・セフィロスに・・・
    セフィロスにとどめを・・・」

 かなりの深手のはず。 
 ・・・だが相手はセフィロスだ。
 だから・・・これは賭だ。

 すまねえ。
 親友の命を・・・・・。

 だが、このままにしておいたら、いつかあいつはほんとに星を滅ぼす・・・・。
 そんな気がしてならねえんだ・・。
 
 神様・・・ほんとにどこかにいるんなら・・・頼む・・・・
 こいつを守ってやってくれ。

 オレはかわりに地獄にでも何でもいってやるから・・よ・・。


 ・・・オレの方を振り返りながらも、
 セフィロスの後を追っていくクラウドの後ろ姿が、
 しだいにぼやけていった・・・・。




   9


 
 ・・・・どこだ・・・・? ここ・・・・。

 視界が・・・ゆらゆらしている・・・・。


 全身が・・・全身の神経がむきだしになったみたいだ・・・・。

 く・る・し・・・い・・・・。


 ・・・目玉ぐらいしか動かせない・・・・。

 なんだ・・・金色の・・・ゆらゆら・・・髪の毛・・・?


 クラウド!!!!

 ようやく、オレは思い出した。

 セフィロスを前に、一瞬の迷いがでて、やつに倒されたこと・・・。

 クラウドがやつを追っていったこと。

 ・・・・あの、ニブルの魔晄炉での、悪夢のようなできごとを・・・・。



 その後も、オレの意識はつながったりきれたりを繰り返した。

 やがて、ようやく、神羅屋敷の地下室のカプセルに入れられているのだ、
 ということを理解することができた。
 クラウドとともに。

 ・・・すでにかなりの年月がたっているらしかった。

 神羅兵が交代でときどき様子をみにくる。

   「なあ、こいつらってほんとに生きてるんか?」

   「宝条博士がなにやらいろいろやってたからなあ。どうなんだろう?」

   「この装置自体はソルジャー用のとかわらんのだろう?」

   「ああ、だけど、数年間も入れておくっていうのはふつうじゃないな」

   「それは・・こいつらの生体機能があらかた死んじまってたから・・・
    って、聞いてるけど」

   「まあ、それもそうだが・・・・なんだか変なことを聞いたんだよ。
    ・・・・セフィロスコピーがどうとかって・・・」

   「セフィロスは死んだんだろう?」

   「らしいんだがな」

   「わけがわからん」

   「まあ、おれたち下っ端には関係ないさ」


 ・・・・・・?

 何を言ってるんだ・・・宝条が・・なにかしたって?

 だが・・・セフィロスは死んだのか・・・。
 なら・・・クラウドはあいつを倒したんだな・・・・?



 魔晄の青い光の中を、その後もどのくらいの間、ただよっていたのか・・・。

 オレはしだいに体力を回復した。

 自分の体を、一日一日、少しずつ確かめていったが、
 ありがたいことに、筋力はさほど衰えていなかった。麻痺も皆無だ。

 その点だけは、神羅の科学技術に感謝する気になった。


 食事もさせてもらうようになっていった。
 食事は神羅兵が運んできて、カプセルについた小さな取り入れ口をあけ、
 そこからさしいれていく。

 オレはチャンスを待った。

 いつまでもこんなところにほうりこまれているのは、まっぴらだからな。



 ・・・そして、その日。

 チャンスはきた。
 いつもは必ず二人で行動している神羅兵が、なぜか一人で食事を運んできたんだ。

   「おーい。エサだぞー」

 特殊ガラスも、一部に隙間があるときは脆い。

 食事の取り入れ口をあける瞬間をみはからって、オレは全力でケリを入れた。


 激しい衝撃音。

 他の兵士が殺到するかと思い、身構えたが、幸運なことにそれはなかった。
 
 のびている兵士を手際よく縛り上げて、
 すぐに隣のカプセルにいたクラウドを助け出したが・・・・・

 かわいそうに、足腰もたたねえ・・・。

 
 ・・・屋敷には、数年前オレがおきっぱなしにしてあった鞄やらなにやらが
 そのまま残されていた。

   「あったあった。これに着替えろよ。ちょっとにおうけど、
    ま、ぜいたくはいうな。 けっこう似合ってるぞ」

 神羅の制服のままってわけにはいかないからな。
 クラウドにはオレの服を着せたわけさ。


 オレのバスターソードを探し出すのは、少し手間だった。

 だが、なんとか倉庫からみつけだして。

 オレはソードとクラウドをかついで・・・・

 忌まわしい、ニブルの地を後にしたんだ・・・・・・・。




  10



   「おい!おっさん!ミッドガルはまだか?」

   「うるさい!乗せてやっただけでもありがたいと思え!」

 オレたちを拾ってくれたおっさんは、
 くわえタバコでのんびりとボロトラックをころがしている。

   「なあ、ミッドガルについたらおまえ、どうする?」

   「・・・・・・」
 
 クラウドは言葉を話すこともできねえらしかった・・・。

   「オレはあちこちにあてがあるんだ。みんなの世話になって・・・・
    あ。どの女の子も親と一緒に住んでるのか・・・
    そりゃ、マズイよなあ?」

   「・・・・・・」

   「ダメだ。作戦チェ〜ンジ! う〜〜ん。なにをどうするにしてもまず金だな。
    おい。おっさん!オレにできそうな仕事、なんかねえかな?」

   「若い時はなんでもやってみるもんさ。
    そうやって自分の道ってもんをさがすのよ」

   「なんでもっつてもよお〜。あ。そうか!
    オレには他のやつらにない知識や技術があるんだよな! よし! きめた!
    『何でも屋』をはじめる!
    おう! ありがとよ! おっさん!」

   「いや・・そうじゃなくて・・・」

   「オレは何でも屋になるぜ。いろいろ面倒なことや危険なことを報酬しだいで
    ひきうけてさ。こりゃ〜もうかるぞ。 
    な、クラウド。 おまえはどうする?」

   「う・・・ぁああ」

   「・・・・・冗談だよ。おまえを放り出したりはしないよ。
    ・・・・トモダチ、だろ? 
    何でも屋だ。クラウド。 オレたちは何でも屋になるんだ。
    わかるか?クラウド・・・・・?」

 何を言っても、クラウドはうめき声しか出さなかったが、オレは根気よく話しかけた。
 
 クラウドの体がどうなっちまったのか、よくはわからねえ。

 だが、とにかく、生きている。

 そうさ。 生きてさえいりゃ、なんとかなる。
 当面は身を隠すようにしてなきゃならねえだろうが・・・・。

 
 ・・・・・丘の稜線に沈もうとしている夕日が美しかった。

 クラウドと肩を寄せ合ってボロトラックに揺られながら、
 オレは不思議なほど静かな気持ちになっていた。

 ・・・かあちゃんたちは元気だろうか。

 ミッドガルにおちついたら、まずはエアリスに会いに行って・・・・。

 それからなんとか、うちにも連絡をとってやりてえが・・・。

 ・・・・ふいに心を黒い不安がよぎっていったが
 オレはあえてその正体をたしかめようとはしなかった。

 セフィロスも、神羅も、いまはいい・・・・。

 クラウドと二人、ミッドガルにたどりつくことだけを、考えよう・・・。




   「おっさん。こりゃ、ダメだなあ。イカレちまってら」

 オレはため息まじりに言った。

 ミッドガルを目の前にして、トラックが故障しちまったんだ。

 まあ、ここからなら歩いてもたどりつけないわけじゃねえが・・・。
 クラウドにはきつそうだからな・・・。

 そのまま道ばたで少し考え込んでいると、遠くからエンジンの音が聞こえてきた。

   「おお。ありがたや!」

 おっさんは単純によろこんだが・・・・。

 目を凝らしてみたオレの心臓はすうっと冷たくなった。


 神羅の武装車だった・・・・。



 武装車の攻撃をさけて、オレたちは足場の悪い岩場を逃げ回らざるをえなかった。

 しかし・・・クラウドに敵をふりきるほどの力があるはずもなく・・・。

 オレは応戦を覚悟した。


   「クラウド。お前はここにいろ。敵はオレがひきつける」

 心許ない窪地だったが、そこにクラウドをおしこめて。


 オレは兵士達の前に躍り出た。


 ・・・ちくしょう。何も考えずに神羅に支配されている犬どもめ!
 
 オレがお前達になぞやられるものか!!!

 かならず生きてミッドガルへ行ってやる!!
 クラウドもつれていく! 絶対だ!!!

 ゆるさない! それを阻むものは!!!!!!!

 全身に力があふれるのを感じた。

 その瞬間。
 オレは、目の前の兵士達をすべてなぎはらうだけの力が、自分にあるのを確信した。

 ソードをにぎる手が・・・燃えるようだ。

 燃える・・・? 

 どこかで感じた・・・これと同じ・・・「いかり」を・・・。

 
 ・・・・・セフィロス・・・・!

 いまオレの中にあるのは・・あいつの、セフィロスの、「いかり」だ・・・。

 すべてをやきつくそうとする、あの狂気の。

 だめだ・・・・!!

 このままこの「いかり」に身を任せたら、オレはあの人と同じになっちまう・・・。

 いったい・・いったいオレの体に何をしたんだ?! 宝条・・・!!


 オレの戦意は一気に凍り付いた。

 死への恐怖よりも、さらに深い恐怖を前にして・・・。

 
 ・・・・逃げる以外に選択肢はなかった。

 クラウドのいる窪地と反対方向へ走ったが・・・その先は行き止まりの崖だった。

 棒立ちになったオレの体に。

 銃弾はまるで雨のようにふりかかってきた・・・・・・・。


 ははは。ざまあねえや・・・これが天才ソルジャーザックスさまの最期かい?

 遠のく意識の中、それでも全身から血が流れ出ていくのがわかる・・・。


 目の前にマシンガンをもった兵士が立った。

 弾がたたきこまれる音が、ひどく遠くに聞こえた・・・・。




   11



 な・・に・・・?
 
 何か・・・冷たいものが・・・顔に・・雨、か・・・・・。

 まだ意識があるのか・・・? オレ?

 きっとあの変な実験のせいだ・・な・・・。

 ん・・・?だれだ・・・?

 クラウド?! お前か? 生きていたのか?
 どうして・・・・いや。どうしてでもいい・・・・・。

 お前が生きていた。
 それだけでオレは・・・・・。


 目の前のクラウドの顔がにじんで見えた。

 「ク・・ラウ・・ド。 これ・・を・・」

 バスターソードを渡そうとしたが・・・さすがにもう、体は動かなかった。

 だが、それでも、オレの気持ちは通じたのだろう・・・。

 クラウドは自分でソードをとりあげ、よろめきながらも立ち上がった。


 そうだ・・。あっちにみえるあのでかい街がミッドガルだ・・・。

 行け・・・・・!

 生きてくれ。クラウド・・・・・。

 ・・・夢遊病者のような足取りではあったが、あきらかにミッドガルをめざして、
 クラウドは歩き始めた。


 クラウド・・・・・・。 死ぬなよ・・・。




 ・・・・・・・・・・・。

 ・・・・エアリス・・・。

 ・・・一緒に祈ってくれ。あの時みたいに。
 
 あいつが無事にミッドガルへたどりつけるように・・・。

 なあ・・許してくれるよな?

 あいつを・・・友達を置き去りにして、ひとりでお前の所へいけなかったオレを。

 ごめんな・・・・ごめん。

 また会おうと言ったのに・・・・・こんなところで。


 エアリス。

 あの教会には、今も花が咲いているかい?

 生きる希望を吸い取られ続けていくあの街の中・・・・

 たった一カ所、光り輝いていた、おまえの教会。


 あそこで・・・・・・
 もう一度、おまえに、会いたかったなあ・・・・。


 ・・・・・至上の幸福を知る場所・・・か。

 そう、オレはすでに「約束の地」を知っていたんだ。



 エアリス。

 先にいくけど。

 別れの言葉はオレには似合わねえから・・・・・・。

 ババアになったお前が来るのを、あっちで気長にまってるぜ。

 ちょっと他の娘とも遊びながらな。

 いいだろ?



 愛しているのは、おまえひとりだけなんだから・・・・・・。







                                 fin