小説館

クラウド鈴木さんの作品


FF・A ―第一章―

1.英雄

「・・・(↑×2)『藤子不○夫A』じゃねぇぞ・・・」
「?・・・誰にいってんだ?」
「い、いや、何でもねぇ・・・」
                                                   

 クラウド=ストライフは、傍らでバギーを運転している男の、飄々とした口調による"小ネタ"にちゃちゃを入れた。といっても、その内容に純粋に疑問を持ったためであるようだ。彼らしい。
クラウド=ストライフ―いわずと知れた、この世界の英雄である。この世界をメテオの驚異から救った・・・。
その直後に勃発した『統一戦争』には参加しなかったものの、『セフィロス事変』から丸十年経った現在においても、その名は世界中に轟いていた。
(・・・この辺りもずいぶん変わった・・・フン、変わっていない、いや、変われないのはオレだけか・・・)
その蒼い瞳にミッドガル郊外の町並みが飛び込んできた瞬間、彼は心の中で自嘲気味に笑った。
 たしかに、中央のプレート状の都市を撤去したうえでの再開発は、ミッドガルという街を大いに変貌させた。権力者の趣味であろうか? 中世風の建造物が町中にあふれ、さらには、それらがかつて原野であった部分にまで拡張されている。かろうじて昔の面影を垣間見ることができるものは、この町並みの中では場違いな、あの近代的な鉄道と、コルネオタウン(旧ウォールマーケット)、そしてあの教会のみである。
そんな思い出の街に比べ、クラウド自身はほとんど変わっていなかった。
 中肉中背のシルエット、あでやかではあるが、決して派手さを感じさせないブロンドの髪、そして、冷たい美しさを放つ蒼い瞳・・・。
 髪は下ろしている。あのバカデカイ剣は捨てた。以前とは異なり、茶系統のスーツを身にまとうようにもなっていた。そして名前も偽っている―が、本質の彼は、たしかに全く変わっていなかった。あの暗く卑屈な性格は・・・
「―しっかし、ホントにこんな都会にあんのかねぇ? 『れいきのマテリア』はよ・・・って、聞いてるか、アーレス?」
 街に入り、初めて信号にひっかかったとき、どうやら相棒らしき男がふいに自分の偽名を呼んだ。
「・・・オレの情報屋の腕は、おまえもよくわかってるはずだが?」
 アーレス=ギルダー、すなわちクラウドは表情を全く崩さずに答えた。
        こ   こ
(そう、ミッドガルだからこそある・・・)
 クラウドの蒼い瞳には、家路に急ぐ大衆と、夕闇に染まった町並みが映し出されていた。

2.出会い・再現・トレジャーハンター

 長身痩躯、黒い髪と瞳を持った男が、鼻歌まじりに、部屋のキーを受付に預けた。
 サングラス越しにかすかに見える目のラインが細い。
 マサキ=シンドー。その名でわかるとおり、また、身体的特徴からもわかるように、ミッドガルではあまり見かけないウータイ人である。
 クラウドの現在の相棒であり、ふたりでトレジャーハンター稼業を生業としている。
まだ25歳であり、クラウドより六つも若いが、彼が選んだだけあって、腕は立つ。  それもそのはず。セフィロス事変直後、神羅の消滅により各新興勢力が覇権を競った統一戦争において、フィガロ共和国軍特別攻撃隊・リターナーという、同遊撃隊・タークスと並ぶ最強部隊に、『巻き込まれた少年兵』という形で参加した彼は、次第にその戦闘センスをいかんなく発揮していき、18歳にして「リターナー副長・中尉」という肩書きを手に入れるまでに至っていた。
フィガロによるミッドガル大陸統一後は軍を辞め、トレジャーハンター稼業に身を投じ、つい半年ほど前からクラウドとコンビを組むようになった。
「お連れの方もさきほど街に向かいましたが・・・?」
 ホテルの受付は、マサキの陽気さにつられるかのように、明るい表情で声をかけた。
「ん? ああ、あいつは飲みにいったんだろ? オレは下戸なんでね・・・」
 マサキは相変わらず飄々とした口調―やはりウータイ訛りのミッドガル語であった―でそう返すと、受付に対し、後ろ向きで軽く手を振りながら、フロントをあとにした。
性格も口調もクラウドとは正反対である。そういえば服装も、スーツ姿であったクラウドに対し、何気ないシャツとジーパン、といったラフな格好だ。
 どうでもいいが、かつてのバレットといい、マサキといい、クラウドの相棒というのは、彼とは全くちがう男にしか務まらないのだろうか?

眠らない街―月並みな表現ではあるが、まさにそう形容できる風景の中、マサキはひとり繁華街に向かい、足を動かしていた。
 どうやら彼のポリシーは、暗くなってもサングラスを外させないようだ。
(う〜ん・・・やっぱミッドガルはいい女が揃ってるなぁ・・・。ウータイ女はおとなしすぎていけねぇ)
マサキはにやけそうになっている顔をどうにかして引き締めた。
 食事のあと、風俗街で有名なコルネオタウンにある、ミッドガルでのいきつけの店『みつばちの館』という老舗の店へいく予定であるらしく、同時に『(自称)オレのマグナム』の暴発も必死に押さえていた。
 ―そのじつ、「ケッ・・・水鉄砲じゃん・・・」といわれたこともあるらしいが―
「おひとつ、いかがです?」
 そんな彼であったが、いきつけのファミレスの正面に着いたとたん、それまでの表情を崩さざるを得ない、顔つきがなにやら少し呆気にとられたものに変化することとなった。 ふいに自分と同年代の女が声をかけてきたためである。
 彼とて、「ずば抜けて」というほどではないにしろ、それなりにルックスは整っている。ゆえに、商売目的も含め、女に声をかけられるということは、いままでの人生の中で何度か経験している。
 また、声をかけてきた女とて、たしかに整った顔つきをしてはいるものの、やはり「ずば抜けて」というほどではない。
 にもかかわらず、マサキは一瞬心を奪われてしまった。
 といって、すぐさま「恋愛感情」というのは早計である。
彼女が、「セフィロス事変で名誉の死を遂げた」とされている、エアリス=ゲインズブールにそっくりだったからである。
まず服装が似通っている。
 さらには、―後ろに一本で束ねているわけではないものの―茶色いロングヘアに、緑色がかった大きな瞳。スラッとしたスレンダーな体型。また、透き通るような白い肌が、なにやら神秘的な雰囲気を放出させている、といった具合に、彼自身が伝え聞く『エアリス像』にほぼあてはまっていた。
「・・・どうしたの? ―あ、一輪どうですか?」
 少し呆気にとられ、固まっていたマサキに気を使ったのか、女がもう一度声をかけてきた。満面の笑みを浮かべながら、花一輪を彼の目前に差し出しつつ。
「・・・あ、ああ、いや何でもない」マサキはやや慌ててそう答えると、
(んなわけねぇよな・・・。きっとファンなんだろ、エアリスの)
 と、心の中でつぶやいたうえで、
「いくらだい?」
 と、彼らしい口調に戻って女の言葉に応えた。
「10万ギル!」
「・・・」
「あ・・・つまんなかった・・・?」
「あんた自身がおまけについてくるんなら、買ってもいいぜ」
「アッハハハ・・・そんな口説き方じゃ、ミッドガルの女は落とせないよ」
「ちぇっ・・・自分のほうからボケてきたのに・・・」
"人同士"というものは、たとえ何十年ともに暮らしてもわかりあえない組み合わせもあれば、出会ってすぐさま意気投合してしまう組み合わせというものもある。
 このふたりの場合は、どうやら後者であったようだ。互いに社交辞令ではない笑顔を
                       めおと
浮かべながら、さながら『夫婦漫才』をやっているように見えた。
そのせいか、女はともに食事をすることくらいは承諾したらしく、ふたりはファミレスへと入っていった。

レイナ=ゲインズブール―女はそう名乗った。おそらく偽名であろう。
 ―伝説の英雄・エアリスの親戚かなにかか? 
 一瞬、そうも考えたが、たしかエアリスという人物に身寄りはない。
ゆえに自身も、"エドモンド=ホンダ"などという、どっかで聞いたことのある名を騙った。
互いの身分については互いに牽制し合ったふたりであったが、それ以外の話題についてはやたらと盛り上がった。
世間話や、流行に関すること、あるいは、互いの故郷―ウータイとミッドガルの文化・習慣のちがいなど、とりとめのない話ばかりではあったが、まるで十年来の親友、もしくは、付き合いはじめたばかりの若いカップルのように、目の前の食事にもあまり目をくれず、時間が経つのを忘れるかのように話がはずんだ。
 そして、あっという間に時間は過ぎ、閉店の時間を迎えるころ、ふたりは互いに惜しみつつも、別々の帰途に着いた。
 マサキとしては送っていくつもりだったが、レイナのほうが恐縮しながら断ったため、彼も渋々遠慮したようだ。
 翌日はお互いの仕事の都合でそういうわけにはいかないが、二日後の同じ時間に同じ場所で待ち合わせることを約束したうえで別れた際の彼女の笑顔は、血なまぐさい日常を送っているマサキにとっては、久々に心洗われるものであった。

その日の深夜。ホテルの一室で、タバコと缶コーヒーを手に、数時間前までのことを思い出していたマサキは、なにやらやさしい感じの笑みを浮かべていた。
 久しぶりにすがすがしい気分にしてくれた女だった。そのせいか、予定していたみつばちの館のシルビアちゃんとの秘め事はキャンセルしたようだ。
「・・・女か・・・?」
 そのさまを見たクラウドは、愛銃・ワルサーの手入れを終了させながら、少しあきれた口調で相棒に声をかけた。
「あ、わかる? ―つっても、惚れたとかじゃねぇんだけど」
                   づら
 マサキは、「にやけ顔」ではないものの、少しうれしそうな顔で答えた。さすがにいまはサングラスを外しているため、その細い目がさらに細く、さながら糸のようになっているのがわかる。
「・・・ミッドガルの女は『わけあり』が多い・・・。おまえのようなお人好しは、はまって抜け出せなくなるおそれがある。気をつけるんだな」 
クラウドは、相棒とは対照的に不愛想にそういうと、バッグの中からバスタオルを取り出し、シャワールームへと消えていった。
(・・・)
 そんな彼のことを黙って見つめていたマサキであったが、彼が完全に姿を消すのを見計らい、
「・・・経験者は語る、ってやつですかい・・・?」
タバコの煙をあえて大量に吐き出しながら、ひとりそうつぶやいた。
(そういや、『生まれも育ちもミッドガル』なんていってたわりに、ちょっとイントネーションがウータイっぽかったよな、あいつ・・・?)
直前までは軽口を叩きつつも、マサキの表情は、ほんの少し険しいものへと化していた。 ビンに活けておいた一輪の花は、ただ静かに咲いている。―

3.Foxy Lady

 翌日―この日、クラウドは、日付が変わる直前まで一切部屋から出なかった。
深夜に控えている仕事に備え、装備品の詳細な整備と休息にあてていたのである。
いまは"仕事場"の"下見"にいっているマサキも、整備を終わらせたうえでの行動であった。
 セフィロス事変及び統一戦争の影響は、当然ながら物質的な被害ももたらした。
 華の都ミッドガルですら、一歩郊外に出ると、地表がむき出しになっていたり、あるいは、草木が一向に生えなくなっている部分が、まだまだ多く見られる。地方にいけば、廃墟と化した無数の建築物群はもちろん、ゴールドソーサーのような砂漠地帯などは、ミイラ化した無数の死体が至る所に転がっている。
 そのため、見かけの華やかさとは裏腹に、ほとんどの物資が―そう、セフィロス事変や、統一戦争の序盤で活躍したマテリアも、「枯渇」とまではいかないにしろ、その数が激減していた。多くの将兵とともに常に最前線に配備されていたのだから、とくに消耗の激しかったもののひとつといえるであろう。
 よって、統一戦争中盤以降は、戦闘における兵器というものに変化が見られている。
 接近戦には変更はない。昔からの剣による斬り合い、刺し合いだが、中・遠距離攻撃用の兵器が、かつての英雄・バレット=ウォーレス、ヴィンセント=ヴァレンタインが愛用していた『銃』を始めとする小火器に移行していったのである。
これらの兵器はマテリアと比べ、運用がやたらと面倒である。ゆえに、常に慎重な整備が要求される。が、マテリアの絶対数が少なくなっているこのご時世ではそんなことをいってはいられない。また、とくに銃などは、威力が絶大すぎ、無関係なものまで巻き込みかねないマテリアによる魔法攻撃とは異なり、「必要最小限の標的のみ捕らえることが可能」という利点もあった。 
 ちなみに、クラウドの現在の武装は、普段は『ワルサー』という中型の拳銃を懐に、仕事の際は、それプラス腰に標準的な剣を一本帯びている、といったものであり、相棒のマサキは、普段は『グロッグ』というやはり中型の拳銃を、彼の場合は、腰の後ろ、背中の下、といった位置に携帯し(シャツをジーパンから出しているため、カモフラージュくらいにはなっている)、仕事の際は、やはり腰に、かつてのセフィロスの愛剣『マサムネ』と同じ性質の剣を一本帯びていた。ただし、彼の剣は『コダチ』と呼ばれる、マサムネ級の剣よりも短く、ショートソードよりは長い、といったものであった。どうやら典型的なライトファイターのようだ。
 それはさておき
 閑話休題。
 といって、マテリアに価値がなくなったといえば、決してそんなことはない。むしろ急騰したといっいい。
やはりその攻撃力の絶大さ有利である。よって、各国の軍の精鋭部隊や、あるいはクラウドたちのような裏世界の人間は、数少ないそれを常に携帯し、いざというときにはそれを使用している。
また、統一戦争時、各勢力は人気取りのために、 
 ―魔晄エネルギーの新規採掘禁止。貯蓄分のみの使用。
 を謳っており、統一後のフィガロ政府もそれを一貫していることから(実際には『眉ツバもの』だが、少なくともすべての魔晄炉の閉鎖は実施済みである)、貯蓄分と、マテリアからの魔法による火力・電力などをエネルギーに変換してやりくりしていた。
 さらには、『かいふく』系のマテリアは医療技術にも転用されていたことから、質や数によっては天文学的な値をつけるほどの代物になっていた。
 クラウド、マサキを始めとするトレジャーハンターは、おもにマテリアを目当てに活動している。―
 
 窓ガラスにうっすらと映る自分の姿。この格好でミッドガルの空気を吸うのはいつ以来であろう? 
 トレジャーハンター稼業の開業以来、二度ほどこの地で仕事を行ったことはある。
 が、この街は、たとえ何度訪れようと、また、どんなに変貌を遂げようとも、自分をそんな気持ちにさせる。
(フン・・・まだあのサルも帰ってきていないというのにこの格好を・・・気がはやっているのか、オレは・・・?)
整備を終えたクラウドは、コーヒーカップを口に持っていきつつ、ひとり苦笑を浮かべていた。
そしてカップをテーブルの上に置き、おもむろに、胸に帯びているガンホルダーから銃を抜くと、
(・・・エアリス・・・)
愛銃に装着している『かいふくのマテリア』を見つめながら、そう心の中でつぶやいた。 そこには、髪型と武装は異なるものの、十年前と全く同じ出で立ちをした男の、少し寂しげな後ろ姿があった。―

 ガン! ガガッン!!

 ドオオォォォッーン!!!!!!

「・・・ったく、何のために下見にいったんだよ」
「そういうなって、どこもかしこもカメラと警備兵ばっかで、死角なんてねぇ、っていっただろ? ―それにこういう状況のほうが、オレの性に合ってるよ」
「・・・フン・・・!」
銃声と爆音が鳴り響く中、ふたりは、ミッドガル近郊の製薬工場の地下通路を駆け抜けていた。
「製薬工場」というのは、もちろん、表向きの話である。
 現在のこの街では例外的といえる、かつての神羅ビルを彷彿とさせる外観を持つこの工場は、秘密裏・非公式、さらには非合法にマテリアを製造している工場であった。
 当日になってクラウドの口からそれを聞かされたマサキであったが、そのじつ、うすうす感づいていたのか、全く驚きの表情は見せなかったようだ。まあ、いまや「トレジャーハンター=マテリアハンター」という公式が成り立っているのだから、当然といえば当然だが。
ただし、同時に疑問も感じてはいた。
 マテリアというものは古代種の知識・記憶が具現化し、それが長い年月を経て現在まで伝わっている、いってみれば遺跡だとか化石に近い存在である。したがって、形を真似ることは可能であろうが、果たしてそれを完全に蘇らせることは可能なのであろうか? そう、この場合はそれがもたらす効果・効力まで・・・?
 おそらく相棒は、「すべて」といわずとも「何らかのこと」は知っているだろう。が、尋ねたところで答えてくれるはずはない。自分より少し遅れて通路を駆けているこの男には、そういう得体の知れない所がある。
しかしながら、いま置かれている状況は、そんな重要な疑問もどうでもいいものにしていた。
 少しばかり広い、一般的な会議室ほどの広さの喫煙ルームに達すると、ふたりは目配せのうえ急転回し、それぞれの愛銃を構え、そしていままでの鬱憤を晴らすかのように引き金を引きまくった。
 さすがにいまはサングラスを外しているマサキの目は、いや、クラウドの蒼い瞳も、見る者をゾクッとさせるような不敵なものに変わっていた。

「・・・やれやれ・・・アーレスの野郎、オレになにをやらせたいのかね?」
ある程度の人数を片づけたため、クラウドの指示により先行したマサキは、やがて、こちらのほうは「ホール並み」といっても差し支えないほどの広さを持つ空間に至ると、タバコに火をつけながらひとりつぶやいた。
 彼の眼前には、かつてクラウドがニブル魔晄炉で目にしたあの光景―得体の知れない無数の装置群と、そして大人ひとりの背丈くらいはあるカプセル群の存在があった。マサキが興味本位で覗いたその中には、いわば「人工モンスター」の姿がある。
たしかこの工場は公的なものである。何%かはわからないが、フィガロ政府が出資している・・・。
 マサキは、普段からボサボサの頭をさらに乱すかのように、前髪をやや乱雑になで上げた。
どうやら相棒は、自分にトレジャーハンター以上のことをやらせようとしているようだ。「・・・こっちの都合はおかまいなしかよ・・・?」
マサキは、無表情のままタバコの煙を吐き出しつつ、あきれた口調で、またも愚痴をこぼした。
 だが、彼の生まれついての宿命とやらは、どうやら常に厄介事を彼にもたらさなければ気が済まないようだ。
次の瞬間、さらなるそれが彼を襲った。
「あの男に目をつけられたのが、あんたの運のツキよ」
「ゲッ!? ユフィ・・・さん・・・」
振り返ると、そこにはかつての跳ねっ返り忍者娘の姿があった。
ユフィ=キサラギ。いわずと知れたセフィロス事変の英雄のひとりである。また、ウータイの、いわば王女的な存在でもあった。
 といっても、いまだ本人にはその自覚がないようである。
(相変わらず『歳考えろ!』ってカッコだな・・・そもそも、今日びルーズソックスって・・・)
マサキの思考のとおり、跳ねっ返りぶりは健在のようである。年相応の色気は身につけており、また、髪を若干―肩にかかるくらいに伸ばしてはいたが、それ以外はなにも変わっていない。
 ―ウータイ女はおとなしすぎる。
 マサキの理念における、唯一のイレギュラーケースである。
「ずいぶんなごあいさつね。久しぶりに会った、きれいでかわいくて、そんでもってセクスィーダイナマイトな先輩に対して」
「や、やらなぁ、りょうだんらっでば(や、やだなぁ、冗談だってば)」
ユフィはマサキの目前まで近づくと、やさしげな微笑を浮かべながら彼の両頬をおもいっきりひっぱった。このやさしい顔つきがかえってこわい・・・。
苦笑と同時に、彼女の言葉により、一瞬、彼女の胸に目がいったマサキであったが、寸前のところで、出かかったため息を飲み込んだ。
それはともかく、どうやらこのふたりは顔見知りのようだ。
 まあ、マサキにとっては祖国の王女様なのだから知っていて当然なのだが、彼がまだ駆け出しだったころ、すでに経験豊富であった彼女に出し抜かれたことがあり、また、二度ほど危機を救ってもらったこともあったことから、「頭が上がらない」というか、「苦手」と感じてしまう女であった。もっとも、その最たる要因は、いま挙げたことよりも彼女のその性格から、といえなくもないのだが・・・
「それにしても、残り少ない魔晄をこんなことに使うなんてねぇ〜」
両手を離したユフィは、最寄りのカプセルに近寄りながら、軽い口調でそうつぶやいた。
「・・・な、なにしに―なんでここに・・・?」
マサキは真っ赤に腫れ上がった頬をなでながら、ユフィに声をかけた。
 それに対し、一瞬、「文句あんの!」とばかりににらみつけたユフィであったが、すぐさま軽くため息をついたうえで、回答を口にした。
「あんたの相棒が使ってる情報屋は、あたしの情報屋のひとりでもあるのよ」
                          お  宝
「・・・また出し抜くんか? マテリアだけガメて・・・」
「人聞きの悪いこといわないでよぉ〜。あのときはいち早く逃げることができたあたしの手の中に、たまたまマテリアがあっただけよ」
「よっく、いうぜぇ・・・今日だって、オレらが戦ってる隙に、悠々と別のルートから潜入したんだろ?」
「ぬ゛ッ・・・」
「『手を組もう』なんていわないでしょうね? ぜってぇー、ヤだぜ」
「・・・ま、まあ、まあ・・・そう冷たくしないで。『同郷のよしみ』ってやつでさ」
「・・・ヤだ・・・」
「(こ、こんの、ガキャ・・・) ―お願ぁい・・・。まだ女を知らなかったあんたにいろいろと・・・」
「読者が誤解するようなこといってんじゃねぇよ・・・。たしかに、みつばちの館紹介してくれたのはあんただったけど・・・それに、オレはその前に済ませてあったぜ」
といった具合に、一時はなごやかな(?)ムードに包まれたふたりであったが、ふいに、その雰囲気をぶち壊すような事態が彼らを襲った。

 !

 何の前触れもなく、そして全く音も立てずに、無数のカプセルが同時に開いた。また、それと同時に、彼らが入ってきた分厚い自動ドアもロックされた。
「モンスター」というよりは「全身の皮膚がただれた人間」とでもいうべき物体が、静かにゆっくり、心なしか恨めしそうな表情を浮かべながらふたりのもとへ歩み寄ってくる。「いくらあんたでも、この数はちょっとしんどいよねぇ〜。なんったって、モンスターが相手だもんねぇ〜・・・山分けかなぁ」
それにもかかわらず、ユフィは「いや〜な笑み」を浮かべながら、傍らにいるマサキの横顔を見つめた。
    ロクヨン
「・・・6:4だ」
マサキは―別の意味で―渋〜い表情を浮かべながら、吸っていたタバコを『デコピン』の要領で投げ捨てつつ、そう答えた。
「OK! あたしが6、あんたら4ね!」
「なんでじゃあぁっ!?」
ユフィは、ショートパンツの後部ポケットから、折りたたみ式に改造済みの"不倶戴天"を取り出すと、ワンタッチで組み立てたうえで、颯爽とモンスターの群れめがけ、突貫していった。―

to be continued

 

 次・回・予・告!
 マサキ:『予告』って・・・続くんか、これ? 
 ユフィ:クラ鈴が勝手にいってるだけ。管理人さんの許可は取ってないって。
 マサキ:そんなぁ・・・せっかくオレ、主人公なのにぃ・・・
 ユフィ:へっ? 主役ってクラ―アーレスじゃないの?
 クラウド:・・・いいから早く予告やれ・・・
 マサキ:次回、FF・A! 「1.アーレス、心不全」「2.マサキのオヤジ狩り」
      「3.ユフィ、春を売る」の三本ですっ!
 ユフィ:・・・あら、ウフフフフフフ。来週もまた見てくださいね〜。―ンガトゥットゥ・・・!
 マサキ:ジャンケンじゃねぇのか・・・?
 ユフィ:ホラ、クラ鈴、年寄りだから。
 クラウド:・・・作者のことだからいつになるかはわからんが・・・
       まあ、期待せずに待って いてくれ。
 ユフィ:あ、そうそう、感想ちょうだいね。もしくれたら、大人になったあたしが・・・
      くの一プレイで・・・
 マサキ:・・・ウソだぞ。信じんな。
 ユフィ:あら、妬いてんのぉ〜。
 マサキ:・・・あんたみたいな性悪、ぜってぇー、ヤだ・・・
 クラウド:・・・同感だな・・・。
 ユフィ:あ、あんたまでいうかぁ!?