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クラウド鈴木さんの作品


FF・A ―第三章―

1.落日

 ガガッン! ガッン!

「クッ・・・!」
「バカにするのもいい加減にしろ! もうあのころの私ではない!! レノさん、ルードさん、そしてツァンさんの後ろを付いて回っていたころの私と一緒にするな!」
イリーナの銃弾がクラウドの肩をかすめた。
クラウドはわずかながらも険しい表情を浮かべ、そしてイリーナも別の意味で険しい表情を浮かべながら、両雄は大通りを挟んで対峙していた。
 イリーナの部下たちはユフィが受け持っている。こちらのほうは片づくのに時間はかかるまい。
一方、敵の大将―イリーナを受け持ったクラウドは、廃屋の陰から出て彼女にタイマンでの銃撃戦を挑んだまではよかったが、思わぬ苦戦を強いられていた。
終始、イリーナが優勢に見えた。攻撃の際の動きも防御の際の反応も、どれをとっても彼女のほうが若干ながら素早かった。
―こいつ、私をなめている!?
 クラウドの強さをよく知っている彼女がそう考えるのも無理はない。
(・・・)
だが、クラウドはクラウドで、「こんなに汗をしぼって戦ったのは久しぶり」というほど全力で相対していた。
「チィッ!」
クラウドは一回舌打ちをすると、「銃撃戦でダメなら」とばかりに剣を抜きつつ、ものすごいスピードでイリーナに接近しようとした。
「そんなに死にたいのかぁ!?」
しかし、それすらイリーナにとっては「なめてる」としか思えない動きであった。
彼女はそういうと、自身の銃に装着されている"れいきのマテリア"を眼前に掲げた。

 !

 万事休す! ―クラウド自身もそう思った瞬間、彼とイリーナのあいだに存在するわずかな空間になにかが飛んできた。
「な、なに!?」
「へへ・・・投〜げる手裏剣、ストライクぅ(古ッ!)」
あらかじめマバリアをかけておいたユフィの不倶戴天が、イリーナがブリザガを発動させた直後、タイミングよく彼女とクラウドのあいだを通過した。
 一瞬、ブリザガがガードされた隙を突いて、クラウドは体を左斜め後方に移した。
ブリザガは、己をせき止めていた不倶戴天が完全に通過すると、空間中を激流の如く流れていき、クラウドの後方の廃屋に激突すると、一瞬にして建物全体を凍らせた。くらっていたら氷付けにされるのはもちろん、その後どんな扱いを受けるかわかったものではない。
「女狐ぇ!」
瞬時に状況を把握したイリーナは、キッとにらみつけるように、ユフィのいる方向に視線を送った。
「あんたにいわれたかぁないわよ!!」 
だが、そこにはすでに彼女の姿はなく、ユフィはそう言い残しながらクラウドの手を引っ張りつつ、不倶戴天をキャッチしたうえで、最寄りの路地裏へと逃走した。
「イ、イリーナ少佐・・・お怪我は・・・?」
「大丈夫。それよりクエイク大尉の部隊に連絡して。『クラウド一行を討ち漏らした。そちらと合流する』って」
「追わないのですか? 我々だけで・・・」
「生き残りはあんたたちふたりと私だけよ? この人数で彼らを討つ自信はある?」
「・・・し、失礼しました! すぐに!」
イリーナはわずかに生き残った部下に善後策を示した。
(とはいえ・・・まあ、私の成長もあるだろうが・・・英雄も落ちぶれたもの、と考えるべきか・・・?)
イリーナはスーツについた泥をパンパンと払いながら、一瞬、不敵な笑みを浮かべていた。

道路とは言い難い―そんな道なき道、いや、原野のまっただ中を走る車中。そこにクラウドとユフィの姿があった。
 半ば廃墟の村から逃げるにあたって、ユフィは半ば不法投棄されていた軍用ジープを拝借した。不法投棄されていたとはいえ、走行するには何ら問題ない代物であった。燃料もとりあえずの目的地までは持ちそうだ。
「・・・痛む?」
「・・・いや・・・」
ユフィはハンドル操作を行いつつ、クラウドに声をかけた。
対するクラウドは直前の戦いで負った傷口にケアルをかけながら、少し間を置きつつも、いつもの調子でそう答えた。

・・・

それでも、ふたりのあいだにはほとんど沈黙しか流れていなかった。エンジン音と、時折大きな石などに乗り上げる際の衝撃音が、唯一といっていい効果音であった。
たまに目にする野生のモンスターも、幸いみなおとなしい種ばかりであったため、余計な戦闘にも巻き込まれずに済んだ。
だが、この静寂はユフィにとって、いや、おそらくはクラウドにとっても歓迎できない静寂だ。
(・・・セフィロス事変での肉体、精神の酷使。それによる"老い"の早さ。そして10年のブランク・・・なるほど、こいつが動かないわけだ。―期待が大きいとその分絶望も大きい、か・・・)
ユフィが横目で見つめているその男は、普段どおり無表情ではあるものの、どこかバツが悪そうに窓の外を見つめていた。―

「んじゃ、始めっか・・・」
 クエイクはニヤリと笑った。
「おいおい・・・久しぶりの再会なんだぜ」
 マサキも不敵な笑みを浮かべた。
「なんだ、命乞いでもするのか?」
「それが通用する相手なら、考えてもいいぜ」
「そういうことだ!」
ちょっとしたやりとりを終えると、最後の言葉とともに、クエイクはバズーカを投げ捨てつつ、猛牛のような勢いでマサキに接近し、彼に対してパワフルな拳をぶつけた。
(! 速ぇっ!)
銃を構えている余裕のなかったマサキは、両腕を己の眼前でクロスすることにより、ダメージを最小限にとどめるのが精一杯だった。が、その勢いで後方に吹き飛ばされ、植木に激突するとともに、グロッグを投げ出してしまった。
 同時にサングラスも外れている。
「マサキくん!」
マサキの身を案じたレイナであったが、駆け寄るまでの余裕はない。彼女の目前にも数名の黒ずくめの男たちが立ちはだかっている。
「ハッハッハ! 腕が鈍ったか、疾風さんよ!?」
クエイクは不敵に、そして豪快に笑うと、次の瞬間、通常よりもふたまわりは大きいであろう剣を抜き、ふたたび地面を蹴った。
「しつけぇんだよ、昔っから、てめぇはよ!」
とっさにコダチを抜きつつ、クエイクの攻撃を闘牛士の如く寸前でかわしたマサキは、それとほぼ同時に突きを繰り出した。
「クッ!」
それをやはり寸前でかわすクエイク。完全には避けきれず、左肩に決して浅くはない傷を負うも、鋼の肉体を持つ彼にとってはどうということのないものである。
その直後にいち早く体勢を直したマサキがふたたび繰り出してきた突きに対しても、自身の剣の特性―異様に広い刀身を生かし、その剣でもってガードした。
「クックックッ・・・相変わらず突き一辺倒か。まあ、その剣じゃどうしてもそうなるわな」
(・・・)
「でも、まあ、そんくらいやってくれねぇと、おもしろくねぇ」
(チッ・・・ヤローのバカみてぇなパンチ食らってなきゃ、剣ごと・・・)
直後に双方後ろに跳ぶことで間合いをとったふたりは、クエイクは左肩に、マサキはパンチを直接受けた左手に痛みを覚えながら、次の一手を頭の中で模索している。
解答はクエイクのほうが先に出したようだ。時間にして数秒後、彼が口にした言葉に、マサキは一瞬、我を忘れた。
「散々いたぶったうえでじゃねぇと殺す気になんねぇ・・・。てめぇにはマルガリーチを殺ったつぐないを受けてもらうからな!」
(!)
マサキは無意識のうちに突きを繰り出した。普段のとぼけた顔つきをオオカミのような表情に変えながら。
「甘い! このオレに何度も同じ攻撃が通用すると思うなぁぁぁ!!」
クエイクはマサキの攻撃を軽くかわすと、同時に彼のみぞおちあたりに膝蹴りを繰り出した。
「ヌグッ・・・!」
蹴りを食らったマサキは声にならない声を上げながら、またも後方に吹き飛ばされた。 テーブルとイスを背にあおむけに倒れこむマサキ。
 それに対し、一転、険しい表情を浮かべながら近づくクエイク。
「まだ殺らねぇぜ・・・」
そういうと、クエイクはマサキの面前で、先ほどの彼の突きによりヒビの入った剣を力強く振り上げた。
そしてそれを振り下ろそうとした瞬間! ―
「グワァァァッ!!」
「マサキくん!」
魔法によりほかの面子を片づけたレイナのサンダガがクエイクを襲った。
クエイクは半ば意識を失いつつ、その場に座り込んだ。
―少なくとも動きを封じた!
そう判断したレイナはマサキのもとに急行し、彼の痩せた体を抱えると、クエイクのほうを見向きもせず、いつしか宝条が盗み出していた車のもとへ走り抜けた。

ブォォッン! ブオオオオッ・・・

宝条運転の盗難車は急発進でカームをあとにした。
「フン・・・まあ、いい。昔のオレではないことをわからせただけでも今回は・・・」
クエイクはひとりそうつぶやくと、自身が荒らしたオープンカフェの敷地内で、体を大の字に寝かせた。―

2.白い闇を抜けて

 カームの南東に位置する、ハイウェイのサービスエリア。この日の深夜はタークスの臨時駐屯地となっていた。
「―おそらく奴らはどこかで合流し、―あるいはすでに合流しているかもしれませんが―ともかく、この付近でハイウェイから降り、いまはほとんど使われていないこのルートを逃走路にするかと思われます」
「・・・」
「ですが、少佐。そのルートはいまやモンスターの生息地ですし、さらにその先にあるミスリルマインなどは奴らの巣です。マサキのバカはともかく、クラウドほどの男がそんなリスクを―」
「私がクラウドならそのルートを選ぶわ」
「・・・『自分たちでは敵わない』と判断すれば大抵は逃げていく化け物どもよりも、必ずしもそうではない人間のほうがタチが悪いってことか?」
「・・・はい・・・」
寝台車両を兼ねた巨大な軍用トラックの中から、イリーナ、クエイク、そして指揮官らしき男の発言が聞かれた。
「・・・相変わらずいうことだけは一人前だゾっと・・・」
指揮官―口調でわかるとおり、レノはイリーナの返事を聞くと、しばしなにやら考え事をしたあと、なぜか彼女に対し、挑発的な言葉を口にした。
「た、大佐!」
「・・・」
レノの言葉に対し、なぜか反応を示すクエイクと、無言で彼の目前に立つことで彼を静止するイリーナ。
周囲には気まずい雰囲気が流れている。
「まあ、いいや・・・。おまえに20人つけてやる。好きにやれ」 
時間にして数秒後、その雰囲気をレノが破ってきた。
「・・・ありがとうございます」
それに対し、なにやら含むところがありそうな口調で、イリーナは礼の言葉を口にした。「じゃ、オレも少佐に―」
「おまえはオレとともに"クラッシュ・マウンテン"ルートだ」
その直後、クエイクがイリーナと同行することを願い出ようとしたが、レノに止められた。クエイクは反論を試みるも、「命令だゾっと」のひとことで、渋々、了解した。
「帳尻は合わせてもらうゾっと。なんせ、『本隊が合流するまで動くな』という命令を無視して突っ走って、多くのお仲間を犠牲にしたんだからな・・・」
「・・・了解であります・・・」
あくまでもイリーナを挑発するレノと、一瞬苦渋の表情を浮かべたうえで返事をしたイリーナ。かつてはあれほどのチームワークを誇った彼らも、「時の流れによる人心の変化」というものに直面してしまったようだ。
直後、イリーナはバツが悪そうに車外へ出ていった。

「あの人は・・・変わってしまったわ・・・」
「・・・」
「ツォンさんという、私たちにとっての精神的支柱を失って以来、彼は『自分がその役目を』って考え、私たち三人のリーダーを気取りだした」
「・・・」
「そこまではよかったんだけど・・・私たちタークスがフィガロに仕官してから組織が巨大化すると、いつしか彼は勘違いしてしまった・・・。『自分は世界の頂点に立てる男では?』ってね。たしかに意外と人を使うのはうまいようだけど」
「・・・少佐・・・」
サービスエリアの片隅の意味不明なモニュメントを背もたれに使いつつ、イリーナは満天の星空を、クエイクはそんな彼女の横顔を見つめていた。
 彼女の命令無視は、敵とはいえ、クラウドに一応の敬意を表していたためであるようだ。目的―頂点に駆け登るためには手段を選ばないレノではどんなやり方をするかわからない・・・。一方のマサキのほうは、彼女にとっては縁のない人物である。
「ごめんね、こんな話しちゃって・・・さ、明日も早いわ。そろそろ寝ましょう」
しばしの沈黙のあと、イリーナは少しだけ苦笑を浮かべながら、クエイクに声をかけつつ、その場から離れようとした。
「少佐・・・何かあったらすぐにオレに連絡してください! あんたのためなら、レノの命令なんぞ―」
「不謹慎よ」
そんな彼女に対し、やさしさをかけたクエイクは、さながら"初恋のころの少年"を思わせるような言動を見せた。
 それをかわいく思ったのか、イリーナは久しぶりに心の底からわき上がってきた笑みを浮かべつつも、彼の言葉を遮った。
「・・・ツォンさんとは全然ちがうけど・・・」
「えっ? いまなんて・・・?」
「フフ・・・」
「少佐?」―
 ほんのつかの間の休息であった。―

考えることはみな同じ―

ドドドドドドドッ・・・!

 ガッン!

 ガッガガガガ・・・!

 クエッ!!

 しんがりを務めているマサキとユフィは、チョコボを操りながら背後に振り返りつつ、マシンガンを撃ちまくっていた。
その先にいるのはもちろんイリーナ一行であり、彼女らもやはりチョコボを操っている。 前日、とあるチョコボファームにたどり着いたマサキ一行は、そこにクラウド、ユフィの姿を確認した。やはり彼らも「足」を求めたのである。
彼らの目的地はジュノンである。
 統一戦争の被害に遭い、山頂から中腹に至るまでが削れてしまった、通称"クラッシュ・マウンテン"。ミスリルマインのさらに南に位置するこの山地に、台地状になった地形を利用して作られたハイウェイを通ったほうが当然早いのだが、追っ手もそれくらいはわかっているだろう。それゆえの回り道なのだが、燃料が足りない。
 そのために途中でチョコボが必要になったわけである。
 チョコボファームの青年オーナーは、クラウドたちと顔見知りだったことから、案外、あっさりとチョコボを差し出してくれた。おまけにマシンガンなどの装備まで。
 ―マサキ:なんで牧場主が武器を・・・? なんてツッコんだ奴。―野生のモンスターか      ら自分やチョコボを守るためだぞ。あげ足とる前に想像力を働かせな。
  レイナ:ごめんね。この人、口悪いから(苦笑)・・・
      気を取り直して続きをどうぞ〜―
 閑話休題。
 ただし、足許を見られ、ミッドガルの地下工場から持ち出したマテリアの3分の1は持っていかれたが・・・
ともかく、チョコボはこの辺りのモンスターの中では最速である。したがって、余計な邪魔が入ることはない。
幸い連絡がとれ、かつてのコンドルフォートの手の者が洞窟の先に車を回してくれており、このままミスリルマインを抜ければ、一気にジュノンへたどり着くことができる。
―のはずだった・・・。が、世の中そう甘くはない。
 イリーナたちもチョコボを徴収し、自分たちのすぐ背後まで迫っていたのである。
「あぁーん、こんな体勢じゃ、狙うモンも狙えないわよ!!」
ユフィが『愚痴』というには大きすぎる声を上げるころ、一行はミスリルマインの入り口に差し掛かっていた。
最近、頭がよくなったのか、動物が通りそうな所を待ち伏せるようになったミドガルズオルムが、途中、ひょっこり顔を出してきたが、レイナのブリザガで瞬時に凍りづけにされてしまった。
一行は素早くチョコボから降りると、洞窟内部へ駆け込んだ。
(洞窟の先で本隊が待ち伏せていれば、より確実なんだが・・・)
イリーナはそんなことを考えつつも、自身も部下を伴い、洞窟の中に入っていった。

 耳がおかしくなりそうだ・・・。
銃声と、魔法が発せられる際の音、そして人やモンスターの悲鳴が、狭い洞窟内にこだましている。
逃げる側も追う側も、互いに互いだけでなく、ほかの脅威にも警戒しなければならない。視界の悪さ、許容活動範囲、そして、「敵味方」ではなく、「エサ」としか自分たちを認識できないモンスターたち・・・。
壁面の、少ない太陽光による白い輝きが、むしろ不気味に見える。          (クッ・・・予想以上に・・・)
そんな中、イリーナはふいに岩陰から襲ってきたモンスターを銃殺したうえで、そんなことを考えていた。
予想以上―この地で戦うこと自体にも当てはまるようだが、それよりも当てはまることがある。それは、どうやら自分を担当している男―マサキの実力だ。
マサキは、ついに目前に捕らえたと思わせては、直後には真横の岩陰から現れて突きを繰り出してくるなど、まさに神出鬼没に、イリーナに対して攻撃を仕掛けていた。
また、たまにイリーナの攻撃に捕らえられそうになると、それと同時に自分に襲いかかってきたモンスターを盾にして攻撃をかわすなど、なかなかの機転も見せつけてきた。
当然、イリーナには不安と焦りの色が見えている。                 「いまのフィガロに、命を張るだけの価値はあんのかい?」
そんなイリーナに対し、いつの間にか彼女の背後に回っていたマサキがふいに声をかけた。
「・・・たしかにフィガロにはないわね。でも、私が尊敬していた人が望んだ統一、安定した世の中―それにならあるわ」
 イリーナは少々焦り気味に振り向いたうえでそう答えた。その表情は凛と引き締まったものと化している。
「・・・ひとつの勢力による統一が、必ずしも人々の幸せにはつながらないんだぜ? もちろん、自分自身の幸せにもな」
「乱を企てる者が、よくいう・・・」
「オレは一介のトレジャーハンターさ」
「しかし、自身の『役目』というものには気づいている」
「・・・成り行き、だよ」
そういうと、マサキはまたもコダチによる攻撃に転じた。レイナのときとはちがう。あのときは敵である彼女自身も本音では戦いを拒否していた。すなわち、考え自体は一致していた。が、いまの敵さんは、あくまでも自分を殺すか捕らえるかしないと気が済まないようだ。これ以上の問答は無意味である。
一方のイリーナも「おしゃべりはここまで」とばかりに、マサキの突きをあっさりかわすと、ふたたび自分の背後に回る形になった彼に対し、銃口を向けた。



だが、どういうわけか、マサキは自分のことを見向きもせず、そのまま直進していった。
そういえば彼の進んだ方向には出口がある。
イリーナは銃を構えながら、彼の後を追った。
そして出口から入ってくる逆光の向こうに、クラウド一行が乗っていると思われるバギーを発見し、「しめた! 一網打尽に!」とばかりにバギーに銃口を向けたその瞬間―
(・・・そうか・・・私は特定の人物を認めてしまうと、知らず知らずに、ほかの人物を見下して・・・この男、クラウド以上だ・・・)
 突然現れたもうひとつの人影が彼女の"生"を・・・
岩陰に隠れていたマサキのコダチが彼女の胸に突き刺さった。
 いまイリーナは「驚いた」とも「呆然とした」ともとれる表情を浮かべている。不思議と痛みはない。
(そう考えれば、レノさんの変わりぶりも許せるかもしれない。彼とツォンさんを比べ、ツォンさんの存在が大きすぎたばかりに・・・)
 彼女の刻は止まっている。
(・・・クエイク・・・嫌いじゃ・・・なかったよ・・・)
 ドサッという音とともに、彼女の人生にピリオドが打たれた。
「・・・レイナ、ファイガで・・・」
「・・・そうね。モンスターのエサにするのは・・・」
 マサキは複雑そうな表情を浮かべながら、後ろにいたレイナにファイガの発動を要請すると、すぐさまバギーの中へ身を移した。
 ファイガを放ったレイナも、そして、敵とはいえ、旧知の仲であるクラウドもユフィも、みなマサキと同様の顔つきを浮かべていた。―

3.Junon's Jazz

 コンドル・フォート。かつて反神羅組織が砦を築いていた地を中心に、セフィロス事変及び統一戦争による難民も入り混じって、小さいながらもいつしか集落が構成されていた。
 そんな土地柄のせいか住人に反骨精神が芽生えるらしく、現在も反政府意識が強い。事実、村そのものがアバランチの同盟組織と化していた。
 先日のクラウドらによるミッドガル地下工場襲撃事件。肝心の真犯人はいまだ逃走中だが、―誰かしらを罰すれば、とりあえずの威信は維持できる。
 古今東西、それが巨大組織の運営に欠かせない現実である。ありがたくない教訓―
そのため、マサキとイリーナが戦っているころ、コンドル・フォートはタークスの征伐を受けていた。
 見せしめの意味も含まれて・・・
 その中で、クエイクはイリーナを手伝えない鬱憤を晴らすかのように暴れていた。さすがに彼のみは、故意には非戦闘員に手を出していなかったが、それでも最も多くの人命を奪っていた。
 そんな彼がイリーナの死を知るのは、その翌日のことであった・・・

 波の音が間近に聞こえる。少し離れた位置からも、時折、汽笛の音が。
 アンダージュノンのクラウドの隠れ家。かつて彼がプリシラという少女を助け、その礼に老婆から「自由に使ってよい」といわれたあの家である。老婆から正式に相続したわけではないが、彼がいまでも使っていることに対し、誰一人としてケチをつける者はいなかった。
 その一室では珍しく物思いにふけっているマサキの姿が見受けられた。一見、いつもどおりの表情にも見えるが、かすかに"陰"が見受けられる。
少し暑く感じたのか、Tシャツ一枚姿であった。
 じつはこの地―といっても、エルジュノンのほうだが―は、彼にとって第二の故郷である。15年ほど前、両親に連れられてウータイからこの地に渡り、クエイクと出会ってクソガキ時代をともに過ごし、ともに統一戦争のおかげで家族を失ったあとも、ふたりして戦いに巻き込まれていった・・・
 だが、いまの彼の無口ぶりは、帰郷の際に誰もが覚える、「過去への慕情」が原因ではない。
 やはりイリーナの件が引っかかっているのである。男というものは勝手な生き物で、男同士ならさほどでもないくせに、女を傷つけることに対しては過剰なほど反応してしまう。まして、相手が美貌の持ち主で、さらにはその相手を殺してしまったとなれば、へこまないほうがおかしい。
 いままで何度も経験してきたことであり、そのため慣れているせいか、さすがに"駆け出しの小僧"ほどではないが、それでも口数はたしかに減っていた。
 また、その直後に車中から見えた、コンドル・フォートからの黒々とした煙も、その一因となっている。「自分たちのせいで・・・」などというきれいごとをいうつもりはないが、やはり気分のよいものではない。
(・・・)
 マサキはタバコの煙を静かに吐き出すと、視線を窓の外に写る穏やかな海へと向けた。
「・・・いいのか?」
「・・・なにが?」
 たまたま部屋の前を通り、その光景をわずかにあいていたドア越しに目にしたクラウドは、隣を歩いていたユフィに声をかけた。
 それに対し、ユフィは案外素っ気無く答えた。
「いや・・・声でもかけてやったらどうだ? ―そう思ってな」
 クラウドはそういうとあごを小さく部屋の中へと突き出した。
「なんであたしが・・・それに、こういう場合は放っておいたほうがいいのよ。あのバカのことだから、風俗でもいって厄落としてくるでしょ」
 ふたりともスーツ姿のせいか、この会話がやたら大人びて聞こえる。
 クラウドについては既出だが、ユフィも普段は紺を基調としたスーツ姿でいることが多いようだ。スカート姿の彼女も、戦闘時における健康的なそれとはちがった色気を感じさせる。
 ただし、そのデザインや色から、以前、マサキに「典型的なリクルートスーツ」とからかわれたという苦い経験を持っているようだが。
 それはともかく、その直後、その場を離れようとしたふたりであったが、ふいに襲った部屋の中の異変に、足を動かすことを止めることになる。
「マ・サ・キ・くん!」
 突然、ドサッという音とともに、マサキの背後にレイナが現れた。
「・・・"忍び"か、おまえは?」
 マサキは自分の背後から抱きついてるレイナに対し、あきれ口調でツッコミを入れた。
 ドアの外にいるクラウドとユフィも言葉を失っている。
 そう、レイナは天井裏から忍び込み、飛び降りてきたのである。本職のユフィも真っ青だ。
 ―やっべぇ、完全にキャラ変わっとる・・・―
「どうしたの? 元気ないじゃん」
 レイナはあくまでも陽気に話しかけた。
「・・・なにが?」
 そんな彼女に心配をかけたくないのか、あるいは、わずかながらも「へこんでること」自体を他人に見られたくないのか、マサキは普段どおりの口調で答えた。
「とぼけないの」
 レイナは少しだけ憮然とした口調で食い下がった。あえて作った三白眼が、彼女の心境を物語っている。あくまで飄々として、意外と本心を明かさない―そんなマサキの本質に対する不満だ。(あくまで自称)ハニーたる自分に対しても・・・
「フゥ・・・」そんなレイナではあったが、すぐさま普段の明るい彼女に戻り、一回ため息をつくと、マサキの反論を待たずして言葉を続けた。
「しょうがないよ。ああしなければ私たちが殺されてた・・・
―さ、こういうときは遊びいくに限る! とりあえず飲みにいこ〜う!! あ、マサキくんはウーロン茶とかでいいからね〜」
いい終えるとレイナは、それまでTシャツ一枚だったマサキのために、いすにかけてあった彼のシャツを手にした。
その一連の言動は、マサキに「んなこたぁ、わかってる」というセリフ―「しょうがないよ。〜」に対する反論の余地を与えないほど迅速なものであった。
わざとやってんだか、天然なのか・・・?
マサキはかすかに、とぼけたような笑みをこぼしながらレイナの顔を見つめた。
「声をかけるのもひとつの手なんじゃないか?」
「・・・(うっさいわね)・・・」
 その光景を眺めていたクラウドは、少し皮肉交じりにユフィに問いかけてみた。ユフィは微妙に顔をしかめている。
 そのように、一見、ほほえましい雰囲気に包まれたその場であったが、次の瞬間、誰もが予想できなかった展開に襲われる。
レイナがマサキのシャツを自身の胸元まで持っていったそのとき! ―
「! ・・・」
 レイナはとっさに体勢を変え、テーブルに置いてあったコダチをすばやく抜くと、マサキの顔めがけて突きをかましてきた。
 かろうじてかわしたマサキ。頬には一滴の脂汗が・・・
「・・・風俗だって、立派な浮気よ・・・」
 冷たくも妖しい表情を浮かべる彼女の左手には、マサキのシャツの胸ポケットから出てきた、"みつばちの館・エルジュノン本店"の割引券が握られていた。
 「・・・」
「・・・マ、マサキの突きより・・・」
クラウドとユフィは、微妙な表情を浮かべているマサキに同情しつつも、自分たちも彼同様の表情を浮かべていた。
 
 こじゃれた黒人サックス奏者が聞かせてくれる心地よい音色―ヒットチャートなどとは無縁であろうが、落ち着いた感じの名曲だ。そんな名もなき曲をバックに、クラウドはグラスの海に写る自分の瞳を見つめていた。
 土着の庶民層が住むアンダージュノンはもちろんのこと、港が近く、そのために意外と労働者層も多いエルジュノンと比べても、よくいえばしゃれた、悪くいえば高飛車な街・アルジュノン。
 その街の外れの"酒場"に彼の姿があった。「飲み屋」と呼ぶには上品すぎる、かといって、「バー」などと呼ぶにも少しちがう―そんな店を選ぶあたり、何となく彼らしい。
 エルジュノンの中心街の、「兄貴」がどうとか、「あの夜を忘れられない」などとというフレーズが耳に入ってくる、どう考えても売れそうにない演歌がかかっている飲み屋に繰り出したマサキ・レイナとは大違いである。
 それはともかく、クラウドの相変わらずキザな素振りに、ややあきれた口調で声をかけてきた男がいた。
「そのしぐさで何人泣かせてきたんだ?」
「・・・マサキのバカほど軽くはない・・・」
「そういう奴に限って、気づかないうちに泣かせてるモンだよ」
 くわえタバコに短めの無精ひげ、ちょっと場違いな、そのまま作業着に転用できそうな服装に身を包んだ男―シド=ハイウインドはそういうと、おもむろにクラウドの対面の席に腰を落とした。
「・・・クライアントの秘密厳守は、おまえらの業界じゃ、常識じゃないのか?」
 そんな彼に対し、今度はクラウドのほうが、相変わらず人を突き放すような口調で声をかけた。
「あのガキなら、おまえの邪魔するようなことはしないだろ? 足は引っ張っても・・・
 ―あ、姉ちゃん、とりあえずジョッキで!」
 どうでもいいが、こういう店でもビールを頼む―決しておかしなことではないのだが、何となくシドらしい。
「・・・大方、弱味でも握られたんだろ。あの女はそういうトコには目ざといからな」
「(ぬ゛っ)・・・」
 クラウドはそういうとグラスを口に近づけ、シドはそんな彼の言葉に、やや乱雑にタバコを灰皿の底に押し付けながら、声にならない苦笑を浮かべた。
 以前、コスタ・デル・ソルのビーチでナンパしていたところを偶然ユフィに見られ、「・・・シエラにいっちゃおうかな〜」と暗に(?)に脅迫された苦い経験を持っているらしい。その際のユフィの顔が「してやったり!」といわんばかりニヤケ顔であったことはいうまでもない。

「・・・マジでやんのか?」
 シドは口の周りに目いっぱいビールの泡をつけながらも、低いトーンでクラウドに問いかけた。
「・・・」
 それに対し、クラウドはあさっての方向を見つめながら、かすかに首を縦にふった。
「・・・フン、相変わらず大胆というか無謀というか・・・」
 シドはあきれつつも、少しうれしそうに笑った。昔のことを思い出したのであろう。やはり無謀だと知りつつも、文句をいいながらも、その作戦を実行していた10年前の若き自分たちの姿を・・・
「ほかにいい手もない」それに対し、クラウドはやはり無愛想にそういうと、直後、
「だが、こっちには疾風とやらと人工古代種がいる・・・」
 今度はかすかに笑みを浮かべてそうつぶやいた。
彼がここまで他人を評価するのは非常に珍しい。そのためシドは少し驚きながらも、からかい半分に、あえて意地の悪い質問を投げかけてみた。
「・・・けど、おまえの相棒―ブラッディ・ウインドも、この前、こてんばんだった、って話じゃねぇか? 古代種にしたって、"実線慣れ"ってモンが・・・」
「・・・要は、オレと宝条さえ、対岸に着けばそれでいい」
 クラウドはふたたび冷たい表情を浮かべながら、やはり冷たい口調でそう答えつつ、グラスを口元へ運んだ。
(・・・最悪、囮に使って・・・って、ことかい? ・・・こいつらしいっていやぁ、こいつらしい・・・)
 シドは顔を引きつらせると、さきほど少し喜び浮かれ気味になっていたことを後悔していた。

「・・・ところで―たまにはカミさんトコにも帰ってやれよ。心配してんじゃねぇのか?」
「・・・とっくに愛想尽かされたさ・・・
―おまえも人のこといえんのか?」
「ヘッ! ちがいねぇ」
 シドが話題を変えたのを合図にするかのようにビジネスの話は終了し、あとは昔話に花を咲かせるふたりであった。
 シドが一方的にしゃべり、クラウドは時折あきれたような笑みを浮かべるのみ―それでも、ハタから見ると楽しそうには見えた。
 旧友との再会。それに、ますます優雅に聞こえてくるサックスの音色―クラウドは久しぶりに"生"というものを実感していた。

 to be continued

 

次・回・予・告!
ユフィ:さぁ〜て、物語も佳境に入ってきたわ!
マサキ:結構、楽しかったぜ。
ユフィ:なんだかんだで、あたしも活躍してるし!
レイナ:みんな、いままで本当にありがとう・・・
ユフィ:クラウドの立てた作戦って、気になるよね?
クラウド:いままでこんな拙い文章に付き合わせて、すまなかったな。
ユフィ:それよりなにより、このユフィちゃんの次回の役回り! どんなんかしらん?
マサキ:次回、FF・A、最終章。
ユフィ:よっしゃ!! あんたたち、次回も張り切って・・・へっ!? 終わっちゃうの?
レイナ:クラ鈴ごときがいくつもいくつも投稿するわけにいかないでしょ(苦笑)?
ユフィ:・・・それもそうね(イリーナも殺してるし)・・・。
マサキ:・・・またどっかで会おう。