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 陽が西の空を焦がし始めた頃、クニーR達は《潮騒亭(しおさいてい)》という宿に入館(チェックイン)した。
 《潮騒亭》はクニーRがネプトリアに宿泊する際に利用する常宿で、一階が酒場、二階が寝室という一般的な冒険者の宿である。夜になれば楽師の弾き語りや、踊り子のショーが楽しめた。

 高額な報酬を得たのだから個室を取ればよいものを、いつもの中部屋に荷物を下ろすと三人は浴場に汗を流しに行った。

「ふう、さっぱりした」

 エリカはタンクトップにショートパンツというラフな姿で部屋に戻ってきた。ユリアも神官衣から私服に着替えている。

「おい、宿のおやじが祝宴(パーティー)を開いてくれるってよ」

 先に戻ってベッドに寝転んでいたクニーRが言った。

「え、ほんと?」

 エリカはそう言いながらクニーRの隣のベッドに腰掛けた。

「この恰好じゃまずいかな?」

 エリカはタンクトップを引っ張りながら言った。

「ふん、何着たって同じだろ」

 クニーRが興味なさそうに呟く。

「クニーはいつも同じ服のくせに」

「俺はこれが正装なんだよ」

 クニーRが身にまとっている若草色の服は、妖精が森の霞を朝露で編んだと云われる魔法の衣だった。軽くて動き安い上に不浄なもの浄化させる力があるとクニーR自身が語っているが定かではない。もちろんその時は「自分自身が一番不浄だろ」とエリカにつっこまれていたが。

「これでいっか」

 エリカはタンクトップの上に薄手のジャケットを羽織って窓際に立つと、灯の燈りつつある街を見下ろした。軒並の向こうに微かに海が望める。そよ風がエリカの頬を心地よく撫でた。

「本当は見たいものがあったんだけど、明日にするかな」

「買い物ですか?」

 淡緑色の長い髪を後ろで束ねながらユリアが尋ねた。

「うん、ちょっとね」

 エリカの個人的な買物だと察したユリアはそれ以上追求しなかったが、クニーRが代わって質問した。

「何買うんだよ?」

「大したもんじゃないよ」

 エリカは窓を閉めてクニーRと向き合った。

「へんなもん買って無駄遣いすんなよ」

 クニーRが余計なことを言う。

「クニーに言われたくないね!」

「うぐっ!!」

 クニーRの腹にエリカの拳が食い込む。
 3人が一緒に旅を始めてから得た収入は、基本的に共有の財産として扱ってきた。しかし、クニーRが夜の街に大量放出するので個人管理に変えたのだった。

「行くよ、ユリア」

 そう言うとエリカは足早に部屋を出て行った。

「いってぇな…加減てものを知らないのかあの女……」

 そう言って腹をさするクニーRを見てユリアが微笑む。

「行くか」

「はい」

 ユリアはケープを羽織るとクニーRに続いて部屋を出た。

 

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